ついに公式発表になりました長編読書会「源氏物語」の開催。まってました!
今回はナビゲーターが渡辺祐真さん(スケザネさん)です。
スケザネさんは能楽師の安田登さんと源氏物語についてのトークイベントを定期的に開催されていらっしゃるので、お話も楽しみですね。
いっちょ読んでみるか、と思われた方も多いと思いますが、ここで立ちはだかるのが訳本の壁。
そこで、僭越ながら過去に猫町倶楽部で開催された「長編読書会 源氏物語」(2018年度名古屋猫町開催)「源氏物語一日一帖完読マラソン」(2020年オンライン開催)のサポだった私が、これまでに全部もしくは一部を読んだ経験をもとに、今入手しやすい訳本と特徴をお伝えして、読破のお手伝いになれば、というブログです。
あくまでイチ個人の感想であることを念頭に置いて、お読みください。
さぁ、あなたのための「源氏物語」を探しにいきましょう。
◆このブログで紹介する訳本
・林望「謹訳 源氏物語」(祥文社/祥文社文庫)
・瀬戸内寂聴「源氏物語」(講談社文庫)
・与謝野晶子「源氏物語」(青空文庫)
・谷崎潤一郎「潤一郎訳 源氏物語」(中公文庫)
・大塚ひかり「大塚ひかり全訳 源氏物語」(ちくま文庫)
・角田光代「源氏物語」(河出書房新社)
・毬矢まりえ・森山恵「源氏物語 A・ウェイリー版」(左右社)
❖林 望「謹訳 源氏物語」(祥伝社/祥伝社文庫)
国文学者林望先生(aka リンボウ先生)による全10巻の訳。
よくある注釈などが全部お話の中に盛り込んであるので煩わしさがありません。しかもとてもわかりやすい。
ストーリーが邪魔されずにちゃんと理解しながらするすると読めます。
文体もしっかりしていますし、作家の個性を盛り込むというアドリブも(多分)発生していません。
個人的に一番推しの訳本です。
文庫本も出ていますが、ハードカバー(?)の装丁がとても良いので、一度図書館へ。
人物相関図ついてます。(源氏は相関図がないと読んでて迷子になるのでとっても大事)
Kindleあり。
❖瀬戸内寂聴「源氏物語」(講談社文庫)
ご存じ寂聴さんによる源氏物語。巻一から巻十まで。
文庫版は表紙がとても美しく、私は迷った末にジャケ買いをし、初めて「源氏物語」を読破できました。
出版社から「中学生にもわかる言葉遣いで」と要請されたそうで、とても優しい語り口で読みやすいです。まるで寂聴さんが宮中にいた女房よろしく読みきせてくれるようでした。
「光源氏って本当はこんな男だったのよ、仕方ないわね、うふふ」という寂聴さんの声が聞こえてくるようです。
相関図つき。
Kindleあり。
❖与謝野晶子「源氏物語」(青空文庫など)
歌人与謝野晶子が10代の頃から何度も読んで体に染み込んでしまった「源氏物語」を訳したもの。源氏物語の初めての現代語訳。
物語と自分が一体化しているのでちょっと創作している部分もあり、少し恋愛に傾きがちな部分もあり、名古屋の源氏読書会のプレイベントを担当くださった先生は「良くも悪くも晶子の源氏物語」と言われました。
各帖に晶子本人の思いを詠んだ歌が添えてあります。
青空文庫、Kindleで無料です! 無料で「源氏物語」読んじゃっていいんですか?
❖谷崎潤一郎「潤一郎訳 源氏物語」(中公文庫)
文学好きの方や2巡目の方にお勧めしたい、谷崎潤一郎訳。全五巻。
王朝文学の香り高く、読んでいて思わず切なくなってしまう箇所もあった美しい訳です。所々の日本画の挿絵も趣きがあります。
なぜ初読の方に勧めないかというと、格調が高すぎるからです。
原文にかなり忠実に訳されているので、主語がなく、文章の区切りもあまりない箇所があったりして、美しいのですが話を知らないと迷子になりがちなのです。潤一郎訳を読むために別の訳本を隣に置いていたのは私。。。
谷崎源氏は旧訳、新訳、新々訳と3回出版されていて、旧訳は削除されている部分があるので注意が必要。今一番流通しているのは新々訳です。
相関図は…ついてたかなぁ、ちょっと忘れました。Kindleなし。
❖円地文子「源氏物語」(新潮文庫)
円地さんの「源氏物語」で初めて源氏を読んだ方も多いと思います。が、私が読んだことがないのでコメントできず。。。
良い訳のようなので、見かけた方、ぜひ挑戦してみてください!
Kindleなし。なお、集英社版は要約のようです。
❖大塚ひかり「大塚ひかり全訳 源氏物語」(ちくま文庫)
2回の長編読書会でどちらでも大人気だったのが、大塚ひかりさん訳。全六巻。表紙が美しい。
とにかく楽しく読みたいという方にお勧め。
訳文だけでなく、途中に挟まれている大塚さんのつぶやきのような「ひかりナビ」が、歯に絹着せぬ物言いでごんごんツッコミをいれ、当時の平安貴族社会の俗っぽい蘊蓄も満載でとっても興味深いです。そうそう、こういうのでいいんだよ。
残念ながら絶版の巻が多いのですが、図書館になら全巻揃ってると思うのでぜひ!!予約してでも読む楽しさがあります。
いろんな人物相関図つき。
Kindleなどなし。せめて電子書籍になってほしい。
❖角田光代「源氏物語」(河出書房新社)
あの角田光代さんが源氏物語を訳す!と話題になったこのシリーズ。枕になりそうな上中下の三巻。
訳は角田さんらしく現代的で端的な言葉遣いと訳文。敬語表現を一切省いているのが特徴的で、煩わしいことなく、すっきりざくざく読めます。
ただ、「源氏物語」の重要な視点である「宮中に勤める女房が高貴な人たちの恋愛や出世レースやあれやこれやを覗き見て、胸を高ぶらせながら噂をしている」という点は味わいにくいかも。
読みやすいので、完読を目指す人にはお勧めです。
相関図はついてました。
Kindleもあり。
❖毬矢まりえ・森山恵「源氏物語 A・ウェイリー版」(左右社)
個性的でおもしろいのがA・ウェイリーの英訳版を日本語に訳し直した、毬矢さんと森山さん訳の「源氏物語」。
なんと表紙絵が幻想的なクリムト!煌びやかな全4巻です。
「光源氏」が「シャイニングプリンス ゲンジ」、「帝」は「エンペラー」、「宮中」は「パレス」。固有名詞の多くが英語になっていて、とてもきらきらしいです。
一方、訳文自体はとってもしっかりしていて、ちょっとエキゾチックでファンタジックな楽しさがあります。
異色に思えるけど、もしかしたら当時「源氏物語」に夢中になった菅原孝標女らにとっては、宮中は雲の上の人たちの世界で、案外こんな風にきらきらしくて、憧れに焦がれて読んでいたのかもしれない、と思いました。
Kindleあります。「桐壺」の試し読みができますので、ぜひ!
読書会には原文を読んでの参加も歓迎です。
❖「源氏物語」(岩波文庫)
作家さんの個性はいらないわ、原文で読みたいわ、という方には岩波文庫です。
めっちゃ勉強になります。装丁も美しくて最近ボックスセットが出ました。
❖中野幸一「正訳 源氏物語 本文対照」(勉誠出版)
原文ということならこちらもお勧め。1ページが3段組になっていて、真ん中に訳文があって読みやすいそうです。
以上となります。
こちら以外のおすすめの訳本がありましたら、コメントいただけると嬉しいです。
このほか、読書会に関係なく小説として楽しむのであれば以下もお勧めです。
(こちらに関してはまた後日ブログとかつぶやきでご紹介するかも)
・田辺聖子「新源氏物語」「新源氏物語 霧ふかき宇治の恋」(新潮文庫)
・橋本治「窯変 源氏物語」(中公文庫)
・荻原 規子「紫の結び」「つるの花の結び」「宇治の結び」(理論社)
そして忘れてはならないのが、受験勉強のために読んだ人も多い漫画版。
・大和和紀「あさきゆめみし 」(講談社)
「源氏物語」を読了してから「あさきゆめみし」を読むとその完成度、忠実な作風に圧倒されます。大和和紀先生は天才か。
「源氏物語」はいつ誰が読んでも必ずおもしろさを見出せる物語だと思います。
長編読書会に参加される方もされない方も、この機会にぜひ手に取ってみてください。
きっとあなたの中に新しい花が咲くはずです。