2021年フィロソフィアの課題本をふりかえるブログ、怒涛の下半期編です。
上半期編はこちら。


この投稿では2021年7月から12月までの課題本を振り返っていきます!

7月

ロラン・バルト『神話作用』(1957)


下半期最初の課題本は『神話作用』。著者のロラン・バルトは5月の課題本『言語の七番目の機能』のキーパーソンでもありました。

神話といってもギリシア神話などを直接扱った本ではありません。日常の中にある様々な要素(広告や娯楽やスポーツや料理など)に含まれている、そのもの自体にとどまらない意味やイメージを読み解く複数のエッセイからなるパートと、そもそもここでいう神話とは何なのかを説明するパートに分かれています。

書かれた時代や国のズレのせいもあり、とっつきにくいという反応もありましたが、「神回」が生まれたテーブルもあったようです。

8月

松村圭一郎、中川理、石井美保編『文化人類学の思考法』(2019)


8月の課題本は『文化人類学の思考法』。文化人類学が蓄積してきた手法を用いて自然、技術、芸術、国家、経済、家族などさまざまな分野を眺める13の小論からなる本です(書き手はそれぞれ異なる)。

全体的には(大部分、「西欧近代」に由来する)私たちの常識的な物の見方を文化人類学によって相対化する、という話が多いので、そのような話をあまり読んだことのない方は読んでみると刺激的かもしれません。

逆に、そういう話はもう知ってるよ、という方はいわゆる構造主義人類学の「後」の潮流の紹介や、個別の事例の分析に注目するとより楽しめると思います。

9月

レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(1955)


9月の課題本は『悲しき熱帯』。文化人類学者レヴィ=ストロースによる、ブラジルの民族を調査する旅の記録を中心とした作品です。

レヴィ=ストロースの経験とそれに対する思索(本書が書かれたのはブラジルを旅した直後ではなく、その約20年後)で満たされている本書ですが、個人的には今年の課題本の中で一番読むのが大変でした。ラウンジでも苦戦の声をよく見かけた記憶があります。

本書の中公クラシックス版の帯には「構造主義の原点」と書かれていますが、構造主義を直接解説するような内容ではないので注意が必要です。自分は文化人類学者レヴィ=ストロースのいわば舞台裏として、レヴィ=ストロースがその手の内を公開している作品として読みました。

ところで、自分はこの種の難解な著作を読むときは、お世話になった大学の先生の「いわゆる大思想家と呼ばれるような人たちは論理を構築する力が私たちよりもはるかに強いため、文章のあらゆる箇所が論理的につながっていると思って読むのがよい」という言葉(だいぶうろ覚えですが)を支えに読んでいます。

10月

ヴォルテール『寛容論』(1763)


10月の課題本はヴォルテールの『寛容論』。フランス革命の約30年前に起こった、カトリックとプロテスタントの対立を背景とする冤罪事件(カラス事件)を受け、ヴォルテールが(宗教的)寛容の意義を説く本です。

世間に広く読まれることを狙ったパンフレットとして出版されたためか、寛容の重要性が理詰めで論じられているというよりは、読者が寛容の必要性を感じるように様々な趣向が凝らされているという印象をもちました(合わせて読んだジョン・ロックの『寛容についての手紙』は、ヴォルテールとは逆に理詰めで寛容を説く書でした)。

読書会では、ヴォルテールの時代の不寛容と現代の不寛容の共通点と差異や、不寛容の快楽をどう抑えるかという話が出ました。

11月

ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙――意識の誕生と文明の興亡』(1976)


11月の課題本は『神々の沈黙』。脳科学の知見と考古学や古典文献学の知見を組み合わせ、意識の起源を探る本です。

著者ジュリアン・ジェインズによれば人類が意識をもったのは紀元前1000年ごろ。すでに文明が成立している時期です。それ以前の人類は「二分心」という状態にあり、右脳で神の声を聞きその声に従って動いていたとされています。

本書で示されるこの仮説に対しては読書会でも賛否が別れていました。本書の中では仮説を裏付ける素材として旧約聖書も引用されているのですが、ちょうどそのころ長編読書会で読んでいた部分と重なっており、「旧約聖書の読み方が変わった」という声も。

12月

C .G.ユング『自我と無意識』(1928)


12月の課題本はユングの『自我と無意識』。ユング心理学のさまざまな重要概念(自我、無意識、ペルソナ、アニムス/アニマ、自己など)をユング自身が解説した本です。

自分は精神分析の知見に対する態度を決めかねているところがあったのですが、読書会を通じて、なぜ精神分析家たちが今日でも影響力のある概念を作り出すことができたのか(例えば「ペルソナ」はマーケティング分野でも使われているなど)を考えるのは重要だと思うようになりました。

フィロソフィアの課題本にしては、ラウンジ外からの参加者が多い会でもありました。

まとめと次回予告

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(↑ 手元にあった課題本(物理)の写真。『武器としての「資本論」』、『ソクラテスの弁明』、『自由意志の向こう側』、『文化人類学の思考法』、『寛容論』以外を物理で買っていました。)

2021年のフィロソフィアの課題本を振り返ってみました。フィロソフィアの読書会に参加された方は「こんな本読んだなあ」「この本の読書会はあんな話題で盛り上がったなあ」と思い出してもらえれば幸いです。この投稿を読んでフィロソフィアに興味をもたれた方は、次回の読書会の参加ボタンを押して、読了の締め切りを設定してみてはいかがでしょうか。

ということで次回の課題本の紹介です。来年1月の課題本はイタリアの理論物理学者カルロ・ロヴェッリによる『世界は「関係」でできている――美しくも過激な量子論』(2020)です。


以前、オフラインの読書会で課題本になった同著者の『時間は存在しない』では、時間が存在しないことと、存在しないにも関わらずなぜ私たちが時間の存在を感じてしまうのかということが、現代物理学を背景に、ときに文学や神話に言及しながら論じられていました。

本書(『世界は「関係」でできている』)では、「時間は存在しない」という主張と同じくらい直感に反する量子論の世界が主題です。量子論の誕生にまつわる種々のエピソードや量子論をめぐる複数の解釈、また量子論が私たちの世界の見方にどう影響するのか、従来の哲学の問題は量子論の世界から見るとどう見えるのか、といった内容がリーダブルに(ときに文学的に)書かれています。みなさんのご参加をお待ちしています!