芸術部の初参加は「風姿花伝」だったのですが、それ以来の芸術部読書会でした。まとまった論があるという本ではなかったため、読書会で話題を展開することも難しいのではないかと予想していました。しかし、名画の生まれる「とき」からの連想で、絵画が位置づけられる文脈がこの本の通底するテーマではないかと、同じテーブルのみなさんの話を聞きながら思いつきました。
    同じテーブルの方から、名画の条件について話を聞き、あれやこれやいろいろと考えながら話を聞きあいながら読書会は進みました。本の内容と名画とは?評価とか?文脈とは?など、さまざまな話題を行きつ戻りつしながら、豊かに読む時間でした。
    著者の宮下先生がテーブルをまわってくださったので、感想(魚籃観音のお話ー地震の直前に足利に修復に出されており、津波の被害を免れたことから、震災復興のシンボルと見なされるようになったーがおもしろかった)をお話したり、長時間にもかかわらず、疲れも見せず、いきいきとお話される様子を拝見して、ただただ尊敬。

    レクチャーもおもしろく、スライドの写真が課題本と同じものもあれば、別角度のものもあり、まさに百聞は一見にしかず。マカオの教会のファサードの写真は別角度、彫刻の細かいところがわかる写真などいろいろあり、日本人が作った可能性についてなど、興味深いものでした。日本のキリシタンが長崎からマカオに渡ったのではないかというお話、潜伏キリシタンと隠れキリシタンの話から世界遺産の持つ価値観の話まで、美術にとどまらない広がりあるお話でした。
    私はついこの間、大原美術館でモネの睡蓮をみたばかりだったので、睡蓮にもよいものと今一つのものがあるというお話から、勢い込んで「大原美術館は?」と聞いてしまいました。(そのくらいフランクな雰囲気だった。)バブル期に入ってきたものは今一つだが古い時期に入ってきた作品はよいものが多いというお話でなんとなく安心しました。(身びいき)バブル時期に日本人が世界中から収集した作品が多くあったわけですが、その作品群の総括はまだだというお話があり、もしかしたら、その研究がなされるのではと、期待してしまいました。
    バブル期はいろいろな評価があってしかるべきだと思いますが、今ほど成果を求められるということはなかったので、大コケするものや大失敗の買い物もあったと思います。でも成果が最初からわかっているものしか、受け付けない昨今の状況を見ていると、よい時期だったかもなと思ったりもします。
    質疑の中では著書の内容だけではなく、私たちのテーブルであった茶道具の質問にも答えていただけました。茶道具の値段はわからないので公共の美術館ではほとんど買わないということ。確かに茶道具で有名な(私が知っている)美術館は、香雪美術館(朝日新聞)、出光美術館(石油の会社)、畠山記念館(荏原製作所)など、近代数寄者が収集したコレクションがもとになっている私立のものが多いように思います。
    茶道具の国宝に関しても、テーブルで「伝来とかが理由で国宝認定されていて、作品としての良しあしとはちょっと違うかも。伝来なんて、まさに文脈ですよね」などと適当な話をしていたのですが、宮下先生も同様のお話をされていて、私の適当な仮説も見当違いでもないなと安心したところでした。

    題名の「名画が生まれるとき」はいくつかの意味が重ねられているようで、その絵が描かれた瞬間だけでなく、作品が名画認定された時代でもあるし、その作品がうまれた背景に焦点づけた言い方かもしれないし、そんないろいろな「とき」が扱われている本なんだなと読書会を経て、そんな感想を持ちました。

2021年12月28日追記
イコンとしての聖母、観音像と絵画としての聖母、観音像ということについて、私はごっちゃにして考えていたのですが、今回の本でその区別ってけっこう大きいのかしら???とこれからは気を付けて見てみようと思いました。