中上健次の『岬』。

読書会告知でタイトル見た時は自然の雄大さを描く小説、国木田独歩の『武蔵野』的なものかと勝手に想像してました。

『武蔵野』は読んだことがありますが、武蔵野の自然は素敵やで~という感じで、面白くないことはないけどあまり響かなかったので(ゆえにほぼ記憶にない)、『岬』もあまり期待してませんでした。

しかし思いのほかの面白く、内容は濃く閉塞感がありしんどいものでしたが、暗くどうしようもない話は好みなので読了することができました。


しんどいというのは主人公の血縁関係の複雑さ、それゆえの主人公の内面への呪縛と叫びが強烈に伝わってくるからです。

血縁の複雑さは読みづらさにつながっていて、読書会のテーブルではわかりにくいから読みにくかったという意見が多かったかに思います。私もちょっとわかりにくいなと思ったけど、韓国ドラマの誰が誰の子?養子?え?え?という感覚に比べたらその複雑さもマシでなんとなく読めたので、韓ドラ好きな方は読めるのではないかと思います。(好みはともかく)

またこの作品を好きな方からの意見で、情報を整理しようと思って読むより音楽を聴く時の感覚で読んだ方が良いというアドバイスもありました。

著者自身が伝えるために書いているのではなくパッションで、祈るように書いているのでは?とのことで「考えるな、感じろ」な作品なんだと思います。

私は読書経験が少ないので著者による文体や、描写の傾向にどこまで違いがあるのかはわかりませんが、この作品はたしかに著者の人生においての引っかかる部分、しこりが常に存在しているように感じ、それが私にとって読み進ませる原動力になっていたので、その方のおっしゃっていたことがなんとなく実感としてあったかなと思います。


とにかくにおいが凄い作品だったという感想の方がいらっしゃって、ものすごく共感したけど感覚的なことでどう共感を表現したらいいかわかりませんでしたが、そういう作品なんだと知ることができて良かったです。

においですが、どういうにおいに受け取ったかは人によるところなんでしょうが、私としては綺麗ではない生活感漂う感じの匂いだと思いました。

主人公が土方であるというのもあるし、作品の舞台が洗練されていない地域だということが感じられ、なんとなく土埃がたっている、あまり道路が舗装されていないイメージを感じました。

不思議なのは舞台も主人公も違う「岬」以外の短編でもなんとなくそのイメージがあったことと、作品内の年代(70年代くらい?)よりもっと古く戦後からちょっと経ったくらいに感じたことです。


労働者の世界の話で、視点もその目線である(対称的に大江健三郎は引いた目線で語っているとも)というような感想もありました。

その感想を聞いて、私が妙な共感を覚えたことに納得がいきました。

私の勤めている会社は工場で現場はフィジカルや感覚的に物事をとらえる人が多いです。端的に言うと男子校のやんちゃ系の方なイメージです。

接しているとその人特有の繊細さは感じますがそれを表に出すのをためらっているのか気づいていないのか、基本的に深く考え込むよりノリで話すような世界です。

で、その感じがこの作品の登場人物たちに似ていました。

それと、私自身はそういう世界で育ってきたわけではありませんが、決して文化的、知的な育ちでもなく、それらに対しての憧れとコンプレックスがあります。

本を読み読書会に参加するようになりよりその感情が強くなり、自分の視点や世界の狭さを感じていました。

なんとなくそれが中上作品の世界観の狭さとそこから抜け出せない主人公達の視点と被ったから他人事ではないように思い読めたのだと思います。


『岬』という本は短編集を含めて著者の。それぞれ独立してはいますが、ある意味繋がっているのだと思います。それらを最後の「岬」のラストで爆発させ消化させようとしたのかなと思います。

「黄金比の朝」は自分の生まれとその環境に対する社会の冷たさとそれに対する怒り。死んだ兄への憧れも少しあったのかなと。

「火宅」は死んだ兄への恐怖と自分の存在の醜さと父への強い憎しみ。

「浄徳寺ツアー」は父やそうと思われる暴力的な要素が強い男性性に対する侮蔑、またそういう人物の視点で描かれていたのは自分にもその要素があることに気づいていた?

「岬」は三つの作品の要素を入れ込んで、それプラス自分が血縁関係においてはずれものであるという寂しさもいれていたのか?と感じました。

最初から主人公である秋幸は自分の生まれについては良く思っていなことが伝わり何も考えないでいたいというようなことを思っていました。自分の血に対する嫌悪は感じているもののまだなんとか抑えてはいるのかなと。張りつめてはいますが。

それが2番目の姉である美恵の義理の弟が殺人を犯し、寝込んだ美恵が美恵たちの父との昔話をした時、岬に家族で行った時から雰囲気が変わったように感じました。

それまでは秋幸の血の繋がっていないこと(母のみつながってはいる)が言葉だけで、血の繋がりではないところにも絆はあるのでそれで保っていたように感じていました。

しかし美恵が寝込んで以降のながれ、昔話をする家族から、秋幸が切り離されているように思えたのです。秋幸自身も自分の血に対する憎しみと同等かそれ以上に疎外感を感じていたのではないかと思いました。

そして岬のシーンです。岬の景色からかんじる清々しさでしょうか、細かい文章は覚えていませんが岬のシーンだけ色が鮮やかに感じました。なんとなく緑があり、海があり、それまでの重苦しさから解放された印象でした。

血に対する憎しみと孤独感を、同じ男を父に持つ妹にぶつけたのではないかと思います。

今まで面識もなかった妹だけが自分と同じで、自分の半身のように感じて、愛しく一つになりたかったのではないか。そして父への復讐を二人でしたのではないかと思いました。


本を読む際に細かい表現などに対しての感度が低いこと、そのため記憶が曖昧であることから、読み間違いもあるかもしれませんが今のところそういう感想の本です。

あと短編の完成の時系列も違うかもしれません。

秋幸シリーズというものがあるらしいので読書に慣れたら読みたいと思います。

その時はこの短編集も読み直した方が良いかな。


いつものように長くなりました。

同じテーブルだった方、ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。