猫町倶楽部のオンラインオペラのサポーターをしていますが、実はオペラは全くの初心者です。サポーターになったら毎月YouTubeでオペラを見ることになるので、初心者の自分でもちょっとはオペラというものがなんとなくわかるようになるかも、という安直な理由でサポーターに手を挙げてみました。

そんなオペラ初心者の私がリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」(C. クライバー、1994年)を見た感想を安直に語ってみたいと思います。

オペラ好きな方や詳しい方、別にふつーだよね、何がそんなにいいのかしらという感想をお持ちの方は、こんなことを言っている初心者がいるのね~と広い心で読み流してくださいませ。


猫町オペラ9作品中8作品を見た中で、私の一推しは断然「ばらの騎士」です。

もうね、本当に良かったの。

ラウンジ入会時の自己紹介以外何も投稿せず他の会員さんのブログもほとんど読んでいなかった私が、「この思いを書き残しておきたい!」ってブログに投稿しようって思う位、本当に本当に素敵だったの。

読書会でも、一言感想を言い始めたら止まらなくなって熱く語ってしまった位、すごく夢中になったの。

初心者が夢想するオペラの世界の要素が盛りだくさんで、3時間超という長さを感じない位、「ばらの騎士」の世界に魅了されたの。

こんなに熱い思いを喚起される心動かさせるオペラに出会えたことが嬉しかったの。


というわけで、私にとっての「ばらの騎士」の魅力ポイントをつらつらと書いていきますね。


魅力ポイント1:元帥夫人マリー・テレーズが本当に素敵!

高位の貴族としての矜持や品格を持ち、年齢を重ねても女性としての魅力を損なわず、それどころが年齢を重ねたからこそ得たであろう魅力を合わせ持ち、その一方で、いつか終わりがくると理解しつつも諦めきれない年下の恋人への切ない恋情が(恋人には隠せても)つい零れ落ちてしまう。

貴族の義務として家同士の利益のために幼い頃から政略結婚として婚約者が定められ(男性とは交流は原則として婚約者と家族のみ)、結婚後(カトリックなので離婚はできない)は〇〇家の後継者としての世継ぎ(+スペアとしての次男と政略結婚の駒としての娘)を残した後にやっと(家名を汚さない前提の下で夫に比べるとささやかな)自由恋愛の楽しみを味わうことができる、そんな宮廷恋愛の時代を生きていた(または後世で宮廷恋愛物語を愛読していた)女性達は、元帥夫人にずうずうしくも自分を重ね、「ばらの騎士」の世界にどっぷりはまったことでしょう。

第1幕の「元帥夫人のモノローグ」に聞き入り、涙ぐんだ(自己陶酔に陥った?)女性観客は多かったことでしょう。

宮廷恋愛(身分が高い貴族夫人と若くて身分が低い騎士との恋物語)って現代では不倫だからアウトだよね、と理解しているはずの私@シングルでさえ、このオペラを観劇している間だけは元帥夫人に自分を重ねてしまってもよいかしら、なんて夢見てしまいそうになりました。


そして、元帥夫人は本当にかっこいい!

王子様役のオクタヴィアンよりもずっと男前で、視野が広くて、人間としての器が大きくて、決断力があって、行動力があって、貴族が負うべき責務を理解していてそれを全うしている。

自分にとって辛い現実から目を背けず、想定より早く到来してしまった恋人との別れを自分から決断して追いすがらずに、有言実行ができる人。

第3幕終わりでは高位貴族の責務として、若さゆえ早計で後先考えないオクタヴィアンの穴だらけの計画を軌道修正し、関係者全員の利害を調整した納得感のある落としどころに持っていくことができる人。


元帥夫人について語りだしたら止まらなくなってしまうので、この辺で。次の魅力ポイントに移りましょう。


魅力ポイント2:王子様役を女性が演じているからこそ(女性観客の共感が得られる)!

オペラでは男性役を演じる女性歌い手を「ズボン役」と言うそうです。

宝塚歌劇団的な世界観といいましょうか。

メインヒロイン役の元帥(侯爵?)夫人マリー・テレーズ、王子様役の貴公子(実は既に爵位を継いで伯爵)オクタヴィアン、お姫様ヒロイン役のゾフィー(成金新興貴族のご令嬢)の三角関係があるのですが、王子様役を女性歌手が演じているため、ドロドロとした生々しさは無く、終わりを告げる悲恋と若者同士の新しい恋を描く美しい絵巻物語のような装丁を成しています。

第3幕の「ばらの騎士の三重唱」は、何度も巻き戻して、全体の雰囲気を堪能したり、3人のうち各個人(特に元帥夫人)に焦点を当ててセリフ(字幕)に注目をしてアリアを聞き入ったりしました。

三重唱の後の若者2人の新カップルの二重唱も初々しい恋の芽吹きが感じられて素敵ですよね。

でも、この二重唱が素敵に聞こえるのは、その前の三重唱があるからこそだと私は思っています。

三重唱→二重唱(若者2人)→小間使いの少年が元帥夫人の落としたハンカチを拾いに来る→閉幕

というフィナーレの流れがしっとりと情緒的で、終わった後も余韻に浸れました。


魅力ポイント3:主役はオックス男爵?

王子様がズボン役でメゾソプラノ、ヒロイン2人はソプラノ、と高音のキーが続きますが、その中で響くオックス男爵の低音バスはしっかりとした存在感で全体を引き締めてくれます。

ストーリーの展開にも欠かせません。第1幕、第2幕、第3幕と全てに登場し、重要な役割をこなします。

強欲でケチで、好色で、自己中心的で、低俗な田舎者で、身分差意識が強く、自分より高位の者にはへつらい低位の者には横柄な態度をとる俗物ですが、そんな俗物具合が自分の身近な人間を想起させて、オックス男爵から目が離せません。

そして、演出なのか、ところどころお茶目な動作があり、俗物だからこその人間的魅力に溢れています。

オックス男爵の何気ない動きにくすっと笑ってしまったり、ストーリーが大きく展開する契機となる言動があるかと一挙手一投足に注目してしまったり、存在感のある低音バスの歌声に聞き惚れてしまったり...

影の主役と言うべきか、本当の主役と言うべきか。

オックス男爵なくしてこのオペラは存在しないと言っても過言ではないでしょう。

「ばらの騎士」の当初の題は「オックス」だったそうですが、納得です。


魅力ポイント4:長さを感じさせない。

全部で3幕ありますが、どれでも一幕だけを取り出して一つのオペラとしてもよい位、魅力的で中身が濃いです。

第1幕では、元帥夫人(シュトラウスによると32歳未満)と年下の貴公子(17歳)との蜜月と終わりの予感。今が楽しく幸せだからこそ、いつか終わりを告げる未来が不安で怯えてしまい、今を純粋に楽しめず、貴公子の不満や不信が増してしまう。もっと自分(の貴女への愛)を信用してよ、という貴公子の気持ちはよくわかるんだけど、ひしひしと伝わってくる元帥夫人の不安な気持ちに共感できて、本当に切ない。

その一方で、女装した貴公子に色目を使うオックス男爵。無事に逃げてー、と思わず声を出してしまいそう。

第2幕では、オックス男爵(35歳?)の婚約者ゾフィー(16歳?)に使者として「銀のばら」を届けに行く貴公子。(銀のばらを贈る設定は、当時の慣習ではなく、オペラの独自アイデアらしいです。)

貴族との結婚に夢見る令嬢ゾフィーが、理想の王子様像を体現した使者に恍惚とし、婚約者オックスの低俗さに幻滅していく様は、若いときってこんな風に勝手に自分の理想を当てはめて投影したり、通常の欠点が(一度上げてしまったがゆえに)許せない位の欠点に見えてしまうことってあるよねー、と年配者ゆえの感想を持ってしまったわ。

オクタヴィアンが若さゆえの偏狭な正義感で男爵に決闘を挑む様子は、「可哀想だから助けたい」は実は心惹かれているってことなんだよねー(第1幕であんなに熱く語っていた元帥夫人への揺るぎない愛はどこへ行った、これしきのことで揺らぐ程度のものなのか、自覚せずに新しい恋に落ちてしまうのはわかるけど元帥夫人の立場で見ると辛いよ)、使者が決闘騒ぎなんて冷静に考えるとおかしいはず、でもこの雰囲気だとこんな風に流されちゃう感じはわかるよ、強引な展開が違和感なく自然な流れに感じてしまうなんて凄いわ。

「銀のばらの贈呈の二重唱」も恋の始まりを予感させてロマンティックで美しい。

自分が若い頃にこのオペラを見ていたら、第2幕にもっと感情移入できたかも。

第3幕では、居酒屋で女装して男爵に罠をしかけるオクタヴィアン。お化けで脅かしたり、貴族として装いの鬘を取り外したり、パパと呼ぶ子ども達が登場したり、便利屋夫婦と店主が支払いを請求したり。警察官に貴族と信じてもらえなかったり。コミカルで思わず笑ってしまう。

でも、このままオクタヴィアンの計画(男爵をやっつける)が上手くいったりせず、元帥夫人が登場して四方八方上手くまとめるだけでなく自分の弱み(年下の愛人との逢瀬)を男爵に悟られる展開になってしまうところが、妙に納得感があって良かったです。オクタヴィアンの計画通りだと、すっきりはするけど、後々怨みを買ってしまうだろうし、男爵だけを一人悪者にして叩けばいいってものではないしね。

後半の三重唱からのフィナーレは前述したので省略。

いやー、本当に、3幕とも全て見応えがあって、素晴らしかったです。今まで見たオペラでは途中で集中力が切れてだれる部分があったのですが、この「ばらの騎士」に関してはだれる箇所が全くありませんでした。

しかも歌い手さん全員の外見が役と合っていて違和感が全くなく、オペラの世界に没頭できました。

全部で3時間を超えているのですが、今まで(猫町オペラで)見てきた2時間くらいのオペラよりも、体感的にずっとずっと短く感じました。

それだけ、引き込まれていたのですね。


魅力ポイント5:マーケティングが上手い。

上述の通り、恋に恋するうら若き乙女から年配の貴婦人まで女性観客のハートをがっしり鷲掴みする要素が満載。

時代が変わっても、舞台となる宮廷恋愛に想いを馳せる女性観客の心を魅了して止まないことでしょう。

妙齢女性としては、オクタヴィアンにはゾフィーより元帥夫人を選んで欲しかった、という気持ちは無きにしも非ず。でも、これは元帥夫人が断腸の思いで自らオクタヴィアンの手を離すからこそ、美しい悲恋で、女性の共感が得られるのですよ。

初演から観客の絶賛を受け、興行は大成功したそうですが、必然でしょうね。

専門家の批評はイマイチだったらしいですが、オペラ初心者の私にはよくわからないです。

もしオペラに詳しい方がいらっしゃいましたら、イマイチと感じられる理由を教えていただけると助かります。


魅力ポイントばかり長々と書いてしまいましたが、私から見た減点ポイントも書いておきますね。


減点ポイント:見終わった後に、メロディが思い出せなかった。

今までは、このオペラにはこの曲というものがあって、ついメロディをハミングしてしまうことがあったのですが...

残念ながら、「ばらの騎士」を見終わった後に、脳内再生して口ずさむことができるメロディは1曲も無かったのです。

オペラを見ている時、アリアを聞いている時は、いい曲だなぁと聞き入っているのに、どうしてかしら。

「カルメン」も「蝶々夫人」も「こうもり」も「椿姫」も、曲だけ演奏されて聞いたことがあるメロディが多かったので、いつの間にか覚えていたからなのかなぁ。

私だけかと思っていたら、読書会で(他のオペラ初心者から)似たような感想を聞いたので、きっと私と同じように後からメロディが思い出せなかった人がいるはず。

これって、「ばらの騎士」独自の現象で、オペラの演目に依るのでしょうか。それとも、観客がオペラに詳しくなれば、生じなくなるのでしょうか。


こんな減点ポイントがあっても、魅力が損なわれることは一切なく、とても素晴らしいオペラです。

オペラ初心者の私がこんなに熱く語ってしまえるオペラに出会えたのは、「ばらの騎士」が課題作品に選定されたおかげです。

読書会に参加して、やっぱりそう思うよね、ここはこれだからこそいいんだよね、と語り合えて楽しかったです。

皆様、ありがとうございます。

せっかくなので、私の感想を(初めてブログに)残すことにしました。

これからも、心動かされる課題作品に出会えると嬉しいな。