猫町倶楽部には本についてだけでなく映画について語り合う会「シネマテーブル」があります。封切り映画・配信映画に加えて、毎月1回、旧作の名画を観て語り合う「シネマテーブルクラシック」も開催しています。

 映画研究者=批評家の 伊藤弘了さんに、シネマテーブルクラッシックサポーターがインタビューしました。

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2021年10月3日、著者伊藤弘了さんをお招きして、読書会を開催しました。
課題本は『仕事と人生に効く教養としての映画』

読書会とその後の懇親会でも参加者からの質問に答えていただきましたが、終了後に、当日のサポーターからインタビューさせていただきました。

ー    猫町倶楽部の読書会にご参加いただき、ありがとうございました。いかがでしたか。

とても楽しかったですね。これだけたくさんの読者の方の声を直接聞ける機会はまずないので、非常に貴重な経験をさせていただいたと思っています。

ー    伊藤さんは著書にご自分の生年(1988年)を書かれていますが、率直なところ、ご年齢の割には好みが渋いなと思いました。元々は文学がお好きで、師事されていた慶應義塾大学の佐藤元状先生の映画ゼミをきっかけに映画研究へとつながったという理解でいいでしょうか。

そうですね。佐藤先生のゼミでは、映画についての批評的な文章を書く機会が多くあって、それが大きかったと思います。映画を見て、自分が考えたことを言語化する作業が楽しかったんですよね。

ー    そして今は小津安二郎監督をご専門にされているわけですね。黒澤明や成瀬巳喜男と比べても小津が特に好きだという感じなんですか。

そうですね。好きですね。

ー    溝口健二監督についてはどう思いますか。

溝口は正直なところ作品によって好き嫌いがあります。『近松物語』や『山椒大夫』は大好きなんですが、たとえば有名どころで言うと『元禄忠臣蔵』や『西鶴一代女』は微妙に乗り切れない。繰り返し見たいと思う作品と、一度見たら「しばらくはいいかな」という作品がある監督ですね。

ー    今回の読書会の課題本の第4講は「絵画のように映画を見る」と題されていて印象的な感じがしました。映画以外に好きなアートはありますか。例えば絵画を見るのが好きだとか、もしくは音楽を聴くのが好きだとか。

東京に住んでいた頃は積極的に美術館にも通おうとしたんですが、絵画にはそこまで馴染めなかったですね。音楽については、佐藤先生のゼミのほかに武藤浩史先生のゼミにも参加していて、そこではビートルズをやっていたので、ビートルズには愛着があります。日本にも好きな歌手はいますし、音楽を聴くのは嫌いではありません。ですが、究極的には音楽がなくても生きていけてしまうタイプなので、そのあたりがタツヤさんと決定的に違う気がしています(笑)。

ー    他の読書会に招かれたことはございますか。

いや、ないですね。

ー    今回の『仕事と人生に効く教養としての映画』が、著書の1冊目という理解をしているんですが、他のペンネームで以前に出版されたことはありませんか。

ないですね。単著としてはこれが初めてですし、こういった読書会にゲストとして声をかけていただくのも初めてのことですね。

ー    お好きな映画評論家、もしくはライターさんはいらっしゃいますか。

加藤幹郎先生です。

ー    本の内容の話なんですが、私は第2講がよかったと思いました。「映画史を知ることでビジネスの基本がわかる」であるとか、「ルーツは関西にあり」などといったことは、私自身わかっていたつもりでもはっきりとわかっていなかったと痛感しました。意外と他の書籍ではあまり扱ってない話題という感じもありますが、ここは力をお入れになったんですか。

そうですね。ビジネス書として出す以上は、単に映画の見方だけではなくて「とりあえずこの1冊を読めば映画入門になる」という本を目指していました。映画批評の本だったらいまさら「映画を見ることの効用」なんて書いたりしないし、それこそ「ファッションセンスがよくなる」なんてことを書いたら馬鹿にされるに決まっているので誰も書かないですが、あえてそういうことも書いてみました。その意味で第2講を評価してくださったのはすごく嬉しいです。作品の分析や批評だけではなく、映画の歴史の部分も大事なんだというスタンスです。第2講はビジネス書の建て付けでなければ書いていなかったでしょうね。

ー    この第2講があることで「必ずしもマニア向けの本じゃないなんだな」という感じが伝わってきました。言葉は悪いんですが、自分の興味関心に引き寄せて語るだけの人じゃないんだなと思えてそこが良かったです。

そう言っていただけるとありがたいです。

ー    小津研究で著名な田中眞澄さんの影響もお受けになっていますか。

ええ、そうですね。ご研究はもちろん読ませていただいていますし、重要な仕事をされた方だと思っています。蓮實重彥とはある意味で対極にあるようなスタイルだとは思いますが、いずれも重要です。

ー    田中さん、蓮實さんが出たことで小津評論が新しい地平に到達したという感覚が私にはあります。今回の本でこういう方の仕事を採用されているところも私は良かったと思います。

ありがとうございます。

ー    ところで私は現在57歳なのですが、読書会で題材にもしていただいた『椿三十郎』はテレビドラマ化されましたから、毎週三船敏郎が出てくるのを子供の頃に見た口なんです。テレビドラマはお好きですか。最近は『半沢直樹』を昔のヤクザ映画と比較しながら語るといった論調もあるようですね。

『半沢直樹』は僕も夢中になって、2013年版も2020年版も全話見ました。池井戸潤の原作小説もすべて読んでいます。ただ、一方で僕の気質として始めと終わりが近いものが好きなようです。ドラマとなると1クールなり2クールなり見なければいけませんから、その間に映画が何本見られるだろうかと考えると、ドラマか映画か迷ったらとりあえず映画に向かうところはありますね。だから話題になった重要なドラマで見ていないものも結構あります。テレビドラマ批評を否定的に考えているわけではまったくないのですが、個人的には論じるのが難しい印象はありますね。映画に比べると作りがどうしても緩やかになりますから。それから、ドラマは映画以上に同時代の社会との関わりが強調されて語られがちな印象も持っています。それはわざわざ僕が言わなくてもいいかなと思っているところはあります。

ー    ドラマそれ自体が企業広告みたいなところがありますからね。

そうですね。やはりテレビの論理で動かざるをえないというか。もちろん映画だって今やテレビ局や広告代理店ががっつり入ってやっているわけで、それこそケースバイケースでしょうが、それでもどちらかを選べと言われたら僕は映画ですね。是枝裕和の映画を掘り下げていた時期に彼が手がけたテレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』は全話見ましたが、積極的にテレビドラマ研究をやりたいという気持ちは今のところはないです。とはいえ、テレビドラマをことさらに排除する意識もないので、機会があれば何か書くことはあるかもしれません。

ー    個人的には映画自体が変わっていくのではないかなと思っています。伊藤さんもあまり良い論調では書かれていないですし、正直、僕も批判的ですが「ファスト映画」って流行りましたよね。

ありましたね。

ー    逮捕者まで出たりして。ただ若い方々がコストパフォーマンスを重視するというのは、僕も理解できる部分はあるんですよね。それで意外と短編映画が存在感を増していくんじゃないかと思ったことがあるんです。それに乗じてサイレント映画が復活したりして、なんてことまで考えたりもしたんですが。

おそらく短編だとマネタイズが難しくなるんでしょうね。あえてYouTube動画でもなく短編映画という形にすると。60分の尺ならドラマでいいじゃないかとなるでしょうし、20〜30分ならYouTubeの切り抜き動画や、ファスト映画みたいなスタイルがウケるわけですし。ああいうタイプの動画で必要な情報だけ摂取したいという需要があるのは、理解はできます。個人的には短編映画が勢いづいてくれれば嬉しいですが、ビジネスモデルとの関係で難しいのかなとは思いますね。もしかしたら「短編映画詰め合わせ」みたいな上映形態でならいけるかもしれないですが。

ー    唐突ですが「お笑い」ってご覧になりますか。

見ないことはないですが、最近の人はあまりわからなかったりします。

ー    「キング・オブ・コント」が終わったばっかりですが「空気階段」というコンビはご覧になりましたか。

今回のですか。見てないですね。「空気階段」というコンビ名は今初めて聞きました。

ー    数年前くらいからコントが、例えばハナコとかですね。笑わせるというよりは、ドラマをそのまま演じて、笑うポイントはお客さんの方で見つけてくれというようなコントが増えていると感じます。笑わせるという感じじゃないんですね。極端なことを言ったらそれこそ「短編映画」っぽいというか。

なるほど。

ー    舞台中継的というか。初期の映画もそうでしたよね。歌舞伎を中継して、はい映画ですとやっていたり。コントを録ったものを映画的に扱うというのもやれなくないのかなと思ったりもして。アートとアートが影響を与え合っている感じしてすごく好ましいと思うんですが。

YouTubeやTikTokのような短い映像コンテンツの流行と、ライブビューイングのような中継配信の文化を掛け合わせたらそういう可能性があるのかもしれませんね。お笑いと映画も興味深いテーマではあります。僕は一時期、鳥居みゆきが非常に好きだったのですが、とりわけ彼女の脈絡を欠いたショートコントに魅力を感じていました。突拍子もない動きだったり、不規則な発話だったりとか。それで連想したのが「アトラクションの映画」という初期映画の有名な概念です。最初期の映画体験では、物語性よりもその瞬間ごとに画面からもたらされるショックやスペクタクル性が優位だったというような議論ですね。うまく接続できるかわかりませんが、初期映画や古典的な映像論を現代的な映像文化から逆照射するようなことができたらおもしろいですね。

ー    ハロルド・ロイドとかジャック・タチとか、突拍子もない動きでバーンといくタイプのコメディアンがいましたよね。

そうですね。現代日本の芸人だったら北野武がいますから「お笑いと映画」はテーマとして十分に成立すると思いますね。

ー    今日はお疲れのところ、お時間を取っていただいて本当にありがとうございました。おもしろかったです。読書会に参加された方も今日を境に映画の見方が変わるのではないかと思います。とてもありがたく思っております。またお会いできる機会がありましたらぜひ。

はい、ぜひ次の機会もお願いします。ありがとうございました。

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その後、課題本の第3講「日本の古典映画はなぜ世界で評価されるのか」で取り上げられている監督の作品を【日本映画の巨匠を観る】と題して、
2021年10月11日(月)には、黒澤明監督の「七人の侍」
2021年11月2日(火)には、小津安二郎監督の「秋刀魚の味」
2021年12月11日(土)には、溝口健二監督の「雨月物語」
を課題作品として感想を語り合う会を行いました。

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★関連イベントのお知らせ★

過去の名作映画の感想を語り合う会、シネマテーブルクラシック。
2022年1月24日(月)の回でとりあげるのは、
黒澤明、小津安二郎、溝口健二に次ぐ
「日本映画第四の巨匠」とされる成瀬巳喜男監督の「浮雲」です!

【日本映画の巨匠を観る】成瀬巳喜男監督「浮雲」


また、午前中のオンライン読書会、猫町オンライン‐マチネの
2022年2月9日(水)の回では、
「浮雲」の主演、高峰秀子の「わたしの渡世日記」(上巻)を課題本とする読書会が開催されます。
※下巻の読書会は次回3月9日(水)に開催します。

【午前中の読書会】高峰秀子「わたしの渡世日記」
(インタビュー:フクシ     文:ken)