祖父も母も叔父もアルコール依存症。性的虐待を受け、学校ではいじめられ、そのうえ不可解な理由で退学させられる。3回の結婚と離婚。4人の子供をシングルで育てる。そして自身もアルコール依存症に。ようやく立ち直ったら、今度は妹の末期がんが判明する。
収録された短編24編のほとんどが著者ルシア・ベルリンの実人生を元にしているという。何という苛烈な人生。
しかし不思議と読後感は悪くない。周囲や自身を冷静に観察し、乾いた筆致で淡々と描く。次々と襲い来る出来事にひるまず、かといって絶望的な戦いも挑まない。ユーモアさえ感じる。
彼女は、第三者的にとらえ、小説にすることで平静でいられたのかもしれない。子どものころからの、それが生き抜く方法だったのだろう。それでもアルコール依存症に苦しんだが、それさえも書き、そして克服した。
短編集をしめくくる「巣に帰る」で、人生を振り返りながら、「もし、あのとき」ともう一つの人生を妄想する。「そしてどうなったと思う? なんとわたしの人生は今とそっくり同じになっていただろう」。良くも悪くも自分の人生は自分のものなのだ。

2022/04/14 07:00