今回の駒井組、書記バートルビー最高でした✨経営者なのに社員達の目に余る勤務態度を是正することもましてや解雇することもできず彼らのむちゃくちゃな言い分に腰砕けになって言い負かされてしまう論理的思考能力に乏しい弁護士が、中でも一番問題児の給料もらっといて何もせず会社に住み着いてしまう「何も書かない書記」バートルビーについてウジウジ語るという究極の「どっちもどっち小説」!(褒めてます)

私的には「自分は悪くない。むしろこんなに部下に配慮してあげて優しい」と妄想に浸るだけで経営者として適正な判断も行動もできない弁護士が一番問題で自分がここに居たら将来が不安過ぎて速攻転職しますが、駒井さんに「5回読めば好きになる」と言わしめたバートルビーは、まあまだ好きにはなれないけど本人に悪気はないし、同僚だったらそりゃ嫌だけど変な奴だなとスルーすればいいし、会社外で知り合った人だったら興味深過ぎてむしろ友達になりたいかもしれないので、駒井さんの気持ちも分からないでもない(ちなみに私は3回読んだところ)。

駒井さんの著作「文学こそ最高の教養である」の中で、バートルビーについてカフカの断食芸人が引き合いに出されていましたが、私も読後カフカを連想し、カフカの小説では「正しいことを一途にやっているつもり」の主人公が周囲の無理解の中で孤立して追い詰められていくというのがよくありますが(城とか変身とか)、この小説もバートルビー目線で語ればそうなるのではと思い、普通に読むと給料もらってるんだから働けよという弁護士側に理があるので不条理には見えないけど、資本主義批判も込めて書かれているという背景を鑑みて実はバートルビーに理があると考えた場合には、真っ当な主人公が周囲の無理解に追い詰められていく不条理劇になるのかもしれないなと思ったりしました。いやどう見てもバートルビー真っ当ではないけど笑

今日の質問タイムで駒井さんも話してくれましたが「文学こそ~」の中にも出てきた訳し方の話も面白くて、一人称は「わたくし」、would prefer not toは「しないほうがいいと思います」の牧野訳が私も一番好き。「僕」だとちょっと若さとか人としての未熟さが感じられるので発言も若気の至り的なニュアンスが出ますが「わたくし」は成熟した大人が熟慮の末おかしなこと言ってるという異常さが際立ちとてもいいし、would prefer not toも旧訳の「そうせずにすめば有難いのですが」「そうしないほうが好ましいのですが」だと語尾が曖昧で相手に判断を委ねるような協調性が若干出ちゃいますが「しないほうがいいと思います」と言い切ることで問答無用、取りつく島のないヤバさがはっきり出て素晴らしい。

日本メルヴィル学会会長(!)の牧野さんも「バートルビー1回読んでわかったら頭おかしい」と言ってたし(「文学こそ~」P360)、駒井さんは5回読んだらバートルビー好きになると言ってたし、ほんとこれは何回読んでも面白いスルメのような小説だと思います。ただ一人だと多分何回読んでも消化できずうおーなんなんだと地団駄踏んでふて寝しちゃうところをみんなであーでもないこーでもないと話し合える楽しさは読書会の醍醐味でした。いつも楽しいけど特に今回は思いもつかない本を教えてくれる駒井組の真骨頂という感じで、読む機会、語る機会を頂けて本当に良かった。駒井さん・サポさん・参加者みなさまありがとうございました!!

(漂流船の方はちょっと…序盤で大体構図が見えたのにいつまでも決着しなくて飽きちゃって…船の精緻な描写とかも知らんしって感じで…つまり白鯨含めメルヴィルの海洋系の小説はI would prefer not to readな感じかなって思いました…あ、ただ班で出た漂流船を荒木飛呂彦先生に漫画化して欲しいという話は全面賛成だしなんならバートルビーも顔は影&背景に「ゴゴゴゴゴ…」で「わたくしはしない方がいいと思います」と言わせればかなり迫力が出ていいのではと思いました…)