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2021年6月8日(火)シネマテーブル定例会
課題映画:松居大悟監督「くれなずめ」
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「ありふれた、どこにでもある光景」として描かれる彼らの思い出に、個人的にあまり興味がわかず、自身の映画評価としては高くはならなかった。
それでも、観た人と好きなシーンを共有してかみしめ、友達の話をしたくなるような映画。
監督や俳優さんが好きだったり、似たような友達との思い出を抱いていたら、思い入れが強くなるのかもしれない。

【全体的な感想】
若いって恥ずかしくておかしい。個人的には共感性羞恥に近いものを感じてしまう部分もあった。
予想できた「ホモソーシャルのノリ」は”あえて”という感じが強く、彼らなりの強がりとイキりだということがわかる。

高校時代の描写が特に顕著で「俺ら最強ww」「うちらまじキャラ濃いww」のノリに、みじんも面白くない身内ギャグ。そのくせ、不良がひとり登場すれば皆しゅんとおとなしくなる。
顔面偏差値の高さで誤解しがちだけれど、いわゆる「イケてないグループ」なんだな。
あくまでも暇人たちの仲良し6人組であり、運動部などのつながりではないため、学年上下による厳格な人間関係がないのがよかった。
しかし、現代描写では明らかに距離感が変わっている。

「こういうことあったよな~」と思い出を寄せ集めるような会話。なんとなくの気遣い。
楽しかった青春時代の陽が落ちかけているのを、本当は皆わかっている。
すでに暮れなずんできている。

他の方の映画感想として、高評価レビューはおおむね「自分にもイイ友達がいた」という内容が多いのが印象的だった。物語の面白さはきっと映画の外にたくさんあって、それを掘り起こすきっかけになるような作品なんだろう。
監督はきっといい青春を送ったんだろうな。(総論)

 【主要キャラ】
冒頭で「登場人物紹介」のようなニュアンスがある。
「ヨシオです。キーパーソン」「キンイチとアカシ。劇団をやってる」「ソースこと曽川。えっ結婚してたの?!」「ヒロナリは後輩だけどしっかり者」「ネジずっと地元だもんな」
キャラクター描写が大事にされており、終盤のあの「受け止め方」のそれぞれの違いがまた良かった。

吉尾:「アイツは今でも心の中で生きている」の具現化
皆が振り返る「吉尾との思い出」…描かれている人物像が、それぞれ微妙にニュアンスが違うのがとてもよい。100人と知り合えば100人それぞれの中で、自分に対する印象ってちがうものだよね。

死者として美化されすぎてしまった感は劇中でも言われていたり、そもそも5年前の時点で他5人との距離感はあったのではないかと思わせる。
遠方に住み、考え方がオトナになっていて、欣一たちの劇も「自分には無理だけど」というニュアンスで褒める。
一人の岐路から明石(皆)に電話で語りかけるシーンも、すでに昔を懐かしんだような語り口。彼にとってはすでに現在進行形の関係性ではなくなっていたような。

そういえば亡くなってから5年というのもポイントで、次は満6年で7回忌。法要も親族のみとなって、友人たちも喪失に慣れていくころ。
物語冒頭の集まりは「結婚式余興の準備」で、冠婚葬祭の真逆というのがまた感慨深い。
彼らの集まり思い出は「吉尾がいなくなった葬儀の悲しい記憶」から、新しく楽しい思い出に上書きされようとしている。

生きる、残されるとはそういうことではあるけれど。「ここに吉尾もいたらいいのに」というやるせない思いをきっかけに生まれたのが、このキャラクターなのかもしれない。

欣一:監督の自己投影キャラ
この物語がそもそも、監督が劇団に誘い続けていた古くからの友人が…という経験から描かれているらしい。
「ハッキリさせようとすんなよ」
「引きずることから逃げるなよ、引きずれよ!」
アツいけれど何も言ってない。セリフのいまいちキマらなさがよかった。
また、高良健吾さんのお顔とスタイルが6人の中でもずば抜けてよく、赤フンダンスのシーンなどは見ていて逆につらくなってしまった。あなたはそんなことしなくていいです。

明石:レビューサイトでの役者さん(若葉竜也さん)へのラブコールがすごい
高校時代の思い出、屋上で清掃委員のやりとりをみるときのけだるそうな男子高校生姿がよかった。あんなにパンをまずそうに食べられる演技ってなかなかない。
不良ではないけれど優等生でもない。何かに打ち込んだりがんばったりする気力はないけれど、サボるまででもない。ただただ「だりぃ」どこにでもいる男子。
役者さんの魅力が120%出ていた。

ソース:ハマケンさんが年下か…
ハマケンさん、作中で女性にアタックしたり、彼女がいたりというニュアンスが何気に多いと思っているけれど、たいてい女性の方が背が高いのとてもよい。
訃報を受けたあのシーン。表情の演技のあとは姿勢の演技。人ってこんなふうに崩れ落ちるんだと思わせた、引きの画面で見る「泣き」にぐっと来た。

大成:ヨックモックは別れのお菓子
3年前の弔問「お菓子もらいに来た人みたいになっちゃって」の、悲しみとも戸惑いとも見える複雑な表情の演技がとてもとてもよかった。若い人にはなかなかなじみがないであろう「親しい人の不幸」をかみしめる絶妙な演技。
ただ、訃報を知った5年前のあの日、窃盗未遂と公務執行妨害で捕まっていてもおかしくない。狂気の表情だった。

※※めちゃくちゃ余談ですがわたしの職場では、以前(テレワークではなかった頃)「退職予定の社員が、お菓子を手に仕事で関わった人ひとりひとりの席に行き、あいさつをする」という儀礼があって、そのときに配られるお菓子でダントツに多かったのがヨックモックのシガールでした。個包装で値段がお手頃だからかな。be2648de-4875-4caf-a2cd-dded2f238283.jpg 88.55 KB


「吉尾が好きだったお菓子」もまさしくこれでちょっと笑ってしまった。ヨックモックは別れのお菓子。

ネジ:あえての影の薄さ?
地元に残り、他の4人と吉尾家をつなぐ役割。ミキエもそうだけれど、なぜかネジさんでワンクッション挟んだ交流になっている。
6人組であれば、あの中にひとりくらいはセクシャルマイノリティがいるのが自然だと思うけれど、個人的にはネジさんがそうだったのではないかと思っている。
※こういう雑で野暮な邪推あんまりよろしくないですが…

 【ヒロイン・サブ】
ミキエ:ヒステリックで「女って怖ェ」像のテンプレ。
あっちゃんがあの声色でがなり立てるたびにげんなりしてしまったから、きっといい演技。

【★好きだったシーン】
・吉尾を成仏させようとして皆で掲げ上げるシーン、信頼しきった手足の脱力っぷり
・お花畑での「吉尾概念」変なカバン!テレビ局配給の大衆邦画だったら絶対あのカバングッズとして作って売ってるよね。
ただ、トランクのように横向きで浮いているのではなくて縦向きが良かった!背負っていたから。
・結婚式についてさらっと「あと、俺の席なかったし」「ああ、悪ぃ。それ手違い」

【☆ちょっと残念】
・舞台劇との違いが悪い方向に出る面が多かった
舞台では場面はずっと「結婚式場の裏」でほぼ変わらないらしく、6人と観客はある意味閉鎖的空間を共有し続ける。そこから、あの突拍子もない「フェニックス」シーンで観客は初めて突き放され、理不尽さに笑いが起きていたのではないか。

対して、映画は最初から場面がいろいろと変わり、フェニックス場面も場面変化の一つでしかない上に何の脈絡もないという。
また、ロードムービーに近い楽しさはあったけれど、結婚式会場から二次会会場に移るのに、なぜか畑の中を行っているのが気になってしまった。どこにむかっているの?

・コメディの描き方が喜劇ではなくコント的
近年のブームなのか。ゆるやかに物語る笑いというよりも出オチ、ツッコミ、天丼ネタ。メタ的な笑いが多く、もう少しストーリーテリングがほしかったところ。

・滝藤賢一さんのアレはどうなのか
ポリコレ的にNGに思えて、上記の通りまさしく出オチ的な笑いでしかない。ノイズにしか思えない。

【★シネマテーブルでの吸収など】
・ハマケンさんと内田理央は仮面ライダードライブでの共演があったので、ニチアサ勢には「あの二人が結婚したのか」という面白さがあったはず。内田さんはあえての配役かもしれない。

・松井監督はTVドラマバイプレイヤーズでの監督/脚本。大杉漣さんの訃報を受けて、急遽脚本を練り直し、ドラマを最後まで成立させたりと、脚本の構成力がある方。

・映画規模にしては役者陣がやけに豪華なのは、実際に売れっ子監督だからこそのコネクションだろうね。


「コンビニ行くけれど何かいるものある?」「愛」は、スピッツの歌詞「愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ」より。ウルフルズからのアンサーソングといい、90年代邦楽のプッシュも大きかった。ノスタルジィ。
大成役の藤原季節さん、すてきだなあと思ったので「佐々木、イン、マイマイン」や、監督の他作品も見てみます。