文化大革命下の中国で、再教育のため、山奥に送り込まれた「僕」と、親友の「羅」と、村にある仕立屋の娘・「小裁縫」を中心とした物語です。
    正直なところ、私にとってインパクトがあったのは、本や物語を希求する気持ちより、「僕」と羅が送り込まれた山での生活のほうでした。私はこういう物語を読むと、どうしても、自分だったら・・・と考えてしまうのですが、当然のことながら描写にリアリティがあって、欝々としてしまうところがありました。
    もし私が「僕」のような環境になったら、誰かに何かを打ち明けたりできるだろうかということも考えました。基本的に小心者なので、誰かにそっと言ったことがもし告げ口されたらと思うと、私は口をつぐんでしまう気がします。そういう発想なので、「僕」と羅も物語のどこかで対立したり裏切ったり裏切られたりするんじゃないかしらと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。ただ、「メガネ」が村を出られる希望を見つけた途端に態度を豹変させたように、「僕」と羅のどちらかが村を出るチャンスをつかむことがあったらどうなるのだろうと考えてしまいます。
    そういう意味では、公安局に連れていかれそうになった「僕」が、公安局での拷問に耐える自信がないと考えて、羅に後を託す場面は、共感してしまいました。人間はそんなに強くないだろうな、と。

    最後に小裁縫が村を出ていくところ、「僕」と羅が本を焼くシーンについては、印象的であるものの、その心理は小説内でほとんど説明されておらず、だからこそ想像がふくらむシーンでした。
    読書会ではあまりお話しできなかったのですが、羅と小裁縫の恋の始まりについても、もしかしたら、人によって感じ方が違ったかもしれないと思います。

    抑圧・拘束された世界で、本や物語がいかに希望になりうるか、というテーマから思い出したのは、「アウシュヴィッツの図書係」という小説です。昔、何かで知って、読みたい本リストに入れたままになっていたのですが、今回、本書を読んで、久しぶりに思い出しました。

    同じテーブルだった皆さま、ありがとうございました。