アプロディーテー「わたしは祖父の陽物から!」


○『ギリシア神話』(呉茂一)では、オリュンポスの神々は「きわめて雑多な組成を有する混成集団で、ことに征服者たるギリシア民族との信仰と、被征服者たる土着先住民の信仰との団協に成り立」(90)つとされており、本文でも度々、神々の出身地が話題に上がります。今回はそれをまとめてみました。

① ゼウス:明記なし(→ギリシア人古来の神?)
② ヘーラー:「アルゴス土着の先住民の主女神」(107)→アルゴリス地方出身
③ アテーナー:「古い女神信仰の根拠地は、おおむねアテーナイから中北部ギリシアに及ぶ」(134)→アッティケー地方出身
④ アポローン:「おそらく彼は小アジア系の大女神に伴う若い男神であったらしい」(148)→小アジア出身
⑤ アルテミス:「その征服した半島南部から小アジア西南地方にかけて、広く崇拝されていた女神の変形したもの」(200)→エーゲ海地域南部出身
⑥ アプロディーテー:「本拠が元来ポイニキア(略)など、東方にあったこと」(225)→小アジア出身
⑦ エロース:明記なし
⑧ ヘルメース:明記なし
⑨ アレース:「生粋のギリシアの神格ではなかった」「彼の本拠は北方のトラーキアらしく」(277)→トラーキア地方出身
⑩ ヘーパイストス:明記されていないものの、地中海火山系の島々のいずれからしい。
⑪ ヘスティア―:明記なし
⑫ デーメーテール:明記されていないものの、起源は「ミュケーナイ文化以前にも及ぶ」(299)とされる
⑬ ディオニューソス:「北方、トラーキア地方から入った神」(323)→トラーキア地方出身

○「多神教」の神話の代表例として挙げられがちなギリシア神話ですが、こうして見ていくと、ギリシア人本来の神は、どうやらゼウス一柱しかいないようです。
(※「明記なし」としているエロースやヘルメースも、それぞれ「生殖器崇拝の名残り」(253)や「ヘルマに発している」(264)とされ、元来は狭義の神ではなかったようです。)

○ゼウスは、ラテン語のデウス(神の一般名詞)と同じ語源を持つとおり、元は神そのものを指す言葉で、古来のギリシア人にとって彼は唯一の絶対神だったのでしょう。そう考えれば、他の神々を従えてからも、古代ギリシア人たちが「ほとんど一神教に近い敬虔さと帰依とを彼に捧げる」(96)ことも頷けます。

○この本を読むまで、古代ギリシア人たちは、空や海、火山、農耕、狩猟、美に愛に酒と、多種多様なものにそれぞれ神を見出していて、そのために彼らは多くの神を持っていたのだと思っていました。が、実際はどちらかというと、それぞれの民族の持つ神たちが征服や交流によって関係しあい、結果的に多神教というのが生まれたのかな、と感じました。

○おわり。


※()の中の数字は、文庫版のページ数