読書会の冒頭のあいさつで、タツヤさんが、短いけれど非常に語りがいのある、考察のしがいがある小説、というようなことをおっしゃっていたと思うのですが、本当にそのとおりで、一読したときはさらりと読めるけれど、じっくり読むと、いろいろな謎があり、解釈が分かれる小説でした。
    私は一応2回読んで参加したのですが、話しているとだんだん時系列がわからなくなってしまい、帰宅して時系列表を作ってみました。結果、誤解もあったなと反省。
    でも、みんなで、こういう可能性もあるのではとか、こうだったのではとか、わいわい話す読書会はとても楽しかったです。同じテーブルだった皆さま、どうもありがとうございました。

    以下、思い出すままに、今日の話題を。

■「葉桜」と「魔笛」とは?
    小説の中には「葉桜」という言葉は出てきますが、「魔笛」という言葉は出てきません。「魔笛」が指すのは、姉と妹が聞いた口笛だろうと思うのですが、なぜそれを「魔笛」と呼んでいるのか。人ならぬものの口笛だからでしょうか?
    一方の「葉桜」については、この一日が葉桜の季節だからだろうと単純に考えていたのですが、ほかの参加者の方から、「葉桜」には盛りを過ぎた女性の意味もあると教えていただきました。そうすると、タイトルと本文に登場する「葉桜」の季節は、姉のイメージと重なります。
    自分が参加したテーブルでは、姉の人となりについていろいろ話が盛り上がったので、姉と「魔」笛と考えると、なんだか不吉なタイトルです。

■緑のリボンで結ばれた手紙は誰が書いたのか?
    姉が箪笥の中で見つけた、M・Tからの手紙について、妹は、自分が書いたものだと姉に告げます。最初に読んだときは素直にそう読んだのですが、本当にそうなのでしょうか。
    妹が、自分で体験していないのに具体的な男女間のやり取りを書けるものかという意見もありましたし、女友達などから聞いた話から想像をふくらませて書いたという可能性もあるのではないかとも思います。
    妹の言うとおり、妹が自分で書いた手紙なのだとしたら、M・Tが別れを告げる形で手紙を終えたのはなぜなのかというのも疑問です。その手紙は去年の秋のもので、妹は体は弱かったものの、医師に余命を伝えられるような時期ではなかったはず。それとも妹は、何か感じていたものがあったのでしょうか。
 
■妹はなぜM・Tからの手紙を姉が書いたものとわかったのか?
    他方、妹は、5月に届いたM・Tからの手紙について、姉が書いたものだと言い当てます。
    M・Tが妹が作り出した架空の人物なら、当然彼からの手紙が来るはずもないので、姉が書いたのだと思うのはわかります。一方、M・Tが実在した場合(妹の告白が嘘だった場合)、姉が書いたのだと思ったのはなぜなのでしょうか。
    可能性としては、手紙の内容がM・Tが書いたものとは思えないような内容だったとか、M・Tが今ごろ手紙を送ってくるような人間じゃない(と妹が思っている)とかですかね・・・?

■姉と妹の関係は?
    一読すると、姉は妹を哀れに思い、妹を看病し、妹のために(元)恋人のふりをして手紙を書くなど、妹思いの優しい人であるように思われます。ですが、読書会の中で、姉の行動や言葉を一つずつ確認していくうち、必ずしもそうとばかりは言えないのではないかという気がしてきました。
    日々弱っていく妹が静かな印象を与えるのに対し、姉のほうが気が狂いそうになっています。大きな太鼓のような音を聞くと、地獄の太鼓のような気がして、長いこと泣き続けます。また、妹の不名誉を隠すため、見つけたM・Tからの手紙を全部焼いてしまいます。
    こういったようすから、この姉はかなり感情が激しい人なのではないかという感想をおっしゃった方がいました。
    また、潔癖できちんとした人でもあり、妹に対しても、自分の理想像を押し付けているようにも読めます。自分が家族のためを思っていろいろと我慢しているのに、妹が異性と関係を持っていたことに対する嫉妬のような感情も読み取れるような気がします。あるいは、家族の世話をすることに自分の居場所を見出しているような感じもします。
    物語は姉の視点で語られているので、妹が姉をどう思っているかは、はっきりとはわかりません。姉が妹に対して複雑な思いを抱いているほどには、妹は何も思っていないのではないかという意見も、なんとなく頷けるところがありました。

■口笛と妹の死との関係は?
    口笛が聞こえた後、姉は、「神さまは、在る。きっと、いる。私は、それを信じました」と語ります。そして、妹は、それから三日目に、当初の余命より早く、静かに、死にます。そのことを、姉は、「何もかも神さまの、おぼしめしと信じていました」と言います。
    ここの文脈を、私はどうとらえたらいいのか、よくわかりませんでした。
    読書会では、妹が静かに、苦しまずに死んだことを祝福ととらえたのではないか、という読み方をされた方が多かったと思いますが、姉が妹に何かしたのではないかという説も出ました。

    物語全体が姉の一人語りの上、35年前の出来事を語るという形であることから、姉の記憶が本当にあったことなのかどうかという疑いを差し挟むこともでき、総じて、物事の輪郭がぼんやりとしている小説でした。それぞれに、「私はこう思う」「自分はこう考える」と語ることができ、お互いに刺激し合いながらいろいろな推理ができる一方、どこまでいっても「正解」はわからないところが、読書会が盛り上がる理由かもしれません。

    ベストドレッサーの皆さまも、とても素敵でした。自分自身はあまりドレスコードを楽しめるタイプの人間ではないのですが、ほかの方の「今日の服装のポイント」をお聞きするのはとても楽しかったです。

    最後に雑談。
「葉桜」というと、自分は、花びらがほとんど散って、葉っぱが出てきたころの姿をなんとなくイメージするのですが、海軍記念日は5月27日ということで、これは明らかに若葉の季節だろうなと思ってブログのトップ画像を選びました。