はじめに

3/19開催の駒井組読書会『コンビニ人間』にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
こちらは上記読書会に合わせ猫町ラウンジ内で「『コンビニ人間』を読んだ人に薦めたい作品を教えてください」という企画に寄せられたコメントを、外部公開用にブログとしてまとめたものです。

古典文学や海外文学を読むとき、その作品の時代背景を知りたくなります。
しかし今回の『コンビニ人間』は2016年に発表された現代小説。今『コンビニ人間』を読んで私たちは何を思うのでしょうか。また、今『コンビニ人間』の他にどのような本が読まれているのでしょうか。
「それなら皆に聞いてみよう!猫町メンバーならいろいろ紹介してくれるはず!」と突発的に思いつき企画しました。たくさんの紹介をありがとうございました!

読書会に参加した人もしていない人も、『コンビニ人間』を読んだ人もまだの人も、このブログを楽しんでもらえたら幸いです。 

〇目次
はじめに:ブックガイド作成の背景
【作品紹介】
1.『コンビニ人間』の次に読むべき村田沙耶香作品はこれだ!
2.『コンビニ人間』のように現代社会を表していると感じる作品を教えて!
3.『コンビニ人間』と似たような人物が登場する作品を教えて!
4.小説以外の作品も紹介して!
おわりに:編者感想&謝辞







ではでは!作品紹介始まります!


1.『コンビニ人間』の次に読むべき村田沙耶香作品はこれだ!


『地球星人』

コンビニ人間で扱ったテーマをさらに突き詰めて過激に描いた作品だと思いました。
タイトルがコンビニ「人間」から地球「星人」に進化(?)しているのもそれを表しているかと。


主人公の他者との乖離、地球上においての自分という存在の認識に、『コンビニ人間』と通じるものがある。乖離の規模が『コンビニ人間』は家庭や友人コミュニティだけど、『地球星人』では惑星になっているのもあり、この2作品を比較して語りたくなった。


『コンビニ人間』→『地球星人』の流れで読んで脳ミソシェイクされました。この生命力の強さに「勝てない!」と思いました。


◆『殺人出産』→『消滅世界』→『地球星人』と読むのがオススメ!

村田沙耶香作品の主題の一つは「世界vs私」と自分は思っていて、それを読み解くにはデビュー作から遡って読むのが1番いいとは思うのですが、それだと長いので、顕著に現れているものを。『殺人出産』から『消滅世界』→『地球星人』と読むのをお勧めしたいです。


村田沙耶香作品の主題が「世界vs私」って本当にそう!主人公の芯にある「vs世界」な感覚にぐっと入り込んだほうが読みやすいので、一気読みすると濃密な読後満足感を得られると思う。


『タダイマトビラ』

『タダイマトビラ』は作品のなかでも相当衝撃作の部類。メインキャラの一人、主人公の母がコンビニ人間のように「一般女性のロールを演じるのが苦痛」なタイプで、その苦しみの解放までがおそらくテーマなので類似性あると思います。


『変容』(『丸の内魔法少女ミラクリーナ』収録)

コンビニ人間のテーマの一つが社会で当たり前に受け入れられている価値観の相対化、だと思いますが、『変容』はそのテーマを極端に風刺してる村田沙耶香ギャグ炸裂の小説です。「普通」についていけなくなる感じがコンビニ人間の見てる世界と似てます。


『信仰』

何か大きなものを信じて一体化することが幸せならば、その大きな何かを作って与えてやろうとする話。
そしてメタ的に見るとこの構造は作家とその読者にも当てはまるのではないかと思わせる。


・エッセイの紹介もありました!
『平凡な殺意』(新潮2022年2月号収録。おそらく単行本未収録)

村田沙耶香の小説を読んで興味持ったら、新潮2022年2月号の「平凡な殺意」という自身の加害衝動についての凄いエッセイを読んでほしい。作風を理解するヒントになるかもしれない。



2.『コンビニ人間』のように現代社会を表していると感じる作品を教えて!


『穴』小山田浩子

コンビニ人間で提起された社会問題の派生作品として。ちょっとファンタジー。あえてぼやかして描く感じが個人的には好きなところです。


『オテル・モル』栗田有起

一般的な社会規範や家族の在り方にあてはまらない人々が登場し、主人公の職場が主役といっても良い作品だから。


『まじめな会社員』冬野梅子(漫画)

真面目で要領の悪い主人公が割をくってるところに心が痛くなります。


『モトカレマニア』瀧波ユカリ(漫画)

作者の徹底した人間分析が見事で、途中までは「あるある」ネタ満載のラブコメだが、予想外のラストに度肝を抜かれる。そういう考えもアリなのか!そういう関係もアリなのか!と膝を打ちたくなる新しい男女の在り方を提示してくれる。


『物語が、始まる』川上弘美

主人公の女性が、公園の砂場で拾った「雛型」を拾い、家に持ち帰って育てる(同居しはじめる)話です。最初は人間の「雛型」にすぎない存在ですが、すこしずつ"人らしく"なっていきます。主人公の女性は恋人がいますが、彼との間の会話は歯車があっておらず、会話は行われていますが成立していません。恋人との関係は、現代的な相互不理解、対人コミュニケーション不全を象徴しており、一方「雛形」との関係は、人との関係が現代においては既に想像上のものでしかないかのようであるように感じさせてくれます。


『キッチン』吉本ばなな

世界と自分との間のちぐはぐな関係が描かれており、主人公は限られた場所とそこでの作業をこなすことで、自分をある種解放していることが似ている。内と外の世界の対比などが似ているので、『コンビニ人間』を読みながら、本作を思い出しました。
コンビニの在り方や、日々のルーティンの見出し先などが現代とは異なる1988年には、台所ががそれらの役割を担っていたのかもしれないなと、ふと思いました。


『コンビニたそがれ堂』村山早紀

コンビニの派生作品として。題材や内容は全く違いますが、「コンビニ」というテーマでもここまで違うのか…ということで。


・社会的圧力や生きづらさについて考えさせられる本がたくさん紹介されました。
◆『四隣人の食卓』ク•ビョンモ
◆『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子

どちらも社会的圧力の恐ろしさをがっつり味わえる最高の本です(実際に味わいたくはないけれど)。


『純粋な人間たち』モハメド・ムブガル=サール

深夜、町中の人達が墓所に集まり同性愛者として死んだ男性の死体を掘り返す…そんな動画が拡散されるところから物語は始まります。
舞台となるセネガルはイスラム教の国で同性愛を認めておらず、西洋人から持ち込まれた退廃思想だと考えられてます。
自分の信じる世界を脅かす存在が表れた時、そう簡単には受け入れられない気持ちは『コンビニ人間』における主人公の周囲の人々と似たものを感じました。
この主人公が進む道は、古倉さんとはまた違ったものになるのでオススメしたい一冊です。


『どうしても生きてる』 朝井リョウ

『コンビニ人間』で感じたえぐみに似ているような気がします。短編集なのですが、フィクションとは思えないリアリティがあり、現代社会の生きづらさというものを描いていると思います。収録作品の中では『そんなの痛いに決まってる』が好きです。怖いくらいリアルで、クセになります。


『何者』朝井リョウ

独特の文化がある日本の入社試験。就活講座や友人との会社研究とともに、SNSの裏アカを駆使しながら就活する大学生の葛藤に読み手はヒヤヒヤします。


『ひとりの双子』ブリット・ベネット

ちょうど今日さえぼー先生(北村紗衣さん)『人魚姫』ってアイデンティティとパッシングの話でしょ、というツイートをされていて、この作品のことを思い出しました。パッシングとは人種や性的指向など差別や偏見の対象になりそうなアイデンティティに関わることを隠して社会に適応して暮らすこと(非白人が白人として、同性愛者が異性愛者として暮らすなど)です。社会に根付く差別や偏見、経済格差、「本当の自分」とは何なのか、ありのままの自分で生きるとは?たくさんのことを投げかける作品なので。


『ずっとお城で暮らしてる』シャーリー・ジャクスン

社会から隔絶されたいびつながらも幸せに見えた生活が、異質な存在が現れたことにより均衡が崩れていくところが似ているから。洋書読書会で『くじ』が課題本になっているし、大好きな本なので紹介してみました。


『ハーモニー』伊藤計劃

「ハーモニー」で描かれている、日本風の優しいディストピアとでもいう社会、そして「わたし」と世界の関わりは予見性を増している。


・『コンビニ人間』を読むと「普通」とは何か?と考えさせられます。
『傲慢と善良』辻村深月

「女はこう生きて、こう恋愛して、こう結婚すべき」というものに縛られた女性の失踪劇とその理由に「普通の人生ってなんだ? 普通は恋愛して結婚すべきなの?」という疑問が読者に突き付けられる。迫真の前半が読み応えあり。


『fishy』金原ひとみ

年齢も職業、恋愛観結婚観も三者三様な女性たちに共感と反発を同時に覚える。理解しがたい他者とどう連帯し、関係を育んでいくか、彼女らの生きる知恵に感心もし、どうしようもなさに呆れもする。何が“普通”なのかをかき回し登場人物も我々も混乱させ、徹底した言語化で書き抜く作者の筆が鋭い。『コンビニ人間』に出て来る人物より遥かに自由さを感じさせ清々しい。


『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ

「普通」から外れて湿地帯(ザリガニの鳴くところ)で生きることを強いられた少女はやがて自然科学を学び、人間の営みも湿地帯に棲む生き物たちと変わらないと考えるようになる…


◆『大都会の愛し方』パク・サンヨン

韓国の都会で生きるゲイの青年が主人公の連作小説集。『コンビニ人間』と違ってロマンティックなところも多いお話でありながら、差別や偏見、「普通」とは?という苦悩も描かれていて、文章のテンポの良いところが『コンビニ人間』と共通していると思います。


・村田沙耶香の書評を含めた紹介もありました!
『最愛の子ども』松浦理英子

薦める理由を書きながらネット検索したら、すでにこの作品について村田さんご自身が書評されていることに気づいた。
この村田さんの書評を読んでから、松浦さんの作品に出会ってほしい。
この村田さんの書評は、専門家の見解、という括りではおさまらない、村田さんの言葉として、強く、訴えるものがあると思っています。



3.『コンビニ人間』と似たような人物が登場する作品を教えて!


◆『ぼくは勉強ができない』山田詠美
◆『オーラの発表会』綿矢りさ

この2作の主人公も世間の常識をあまり気にしてない所があり、でも古倉さんとは決定的に違った点があると思っています。


◆『推し、燃ゆ』宇佐美りん

芥川賞作品、発達障害当事者の世界を描いているとしてよく『コンビニ人間』と比べられる作品です。「障害」と思われる実態を描く上では『コンビニ人間』のほうが配慮があると思い、その観点から並べて批評可能だと思います。


信じて一体化できる推しを失くしたら、その後はどうなるのか。
『コンビニ人間』の主人公たる語り手は何気に観察力もメタ認識能力も高いけれど、『推し、燃ゆ』の主人公は言ってしまえば凡庸で、だからこそ推しを失くした後も日常はとにかく続くという奇妙な現実味がある。
(もしかしたら『コンビニ人間』と『推し、燃ゆ』の主人公の違いは「俯瞰型」と「主観型」の違いなのかも。)


読んだ時コンビニ人間思い出しました。あ、今発達障害ブームきてる?と。社会との乖離や生きづらさは確かに文学的だ、と感じ入りました。


『アフターダーク』村上春樹

人間味があるようで感じられない主人公の類似性。


『サクリファイス』近藤史恵

自分は相手の人生という本の一ページに出できた登場人物の一人に過ぎない、、というような刹那的な性質を感じたから。


『アーモンド』ソン・ウォンビョン

主人公の感覚に共通項の多いアーモンドを推します。両方大好きな本です!
ユンジェと古倉さんは似てるんだけど同じではないので、何が違うのかな…と考えています。


 ◆『料理なんて愛なんて』佐々木愛

作中の「普通」から外れている男性(真島)がパートナーに「普通」を求めているところに白羽みを感じました。


・そして続々と紹介される今村夏子作品!
◆『むらさきのスカートの女』今村夏子

ちょっと変わった人が主人公の作品の系統としてオススメしたいです。


◆『こちらあみ子』今村夏子

現代社会を表していて、似たような人物が登場するから
今村さんと村田さん、じつはぜんぜん似てないんですけどね
あみ子はコンビニで働けるかな…


 ◆『あひる』今村夏子

主人公が身の回りで起きる出来事の違和感について、ペットのあひるを中心に語っていく。社会的立場の危うさが少しずつ浮き彫りになり、終盤の第三者の反応で主人公こそ異端であることが分かるのが印象的。本作と異なり主人公は無自覚ですが、性質はそっくりです。


◆『とんこつQ&A』今村夏子

この作品は今村版『コンビニ人間』だと思った。



4.小説以外の作品も紹介して!


 ◆『種の起源』チャールズ・ダーウィン

私はこの作品を、コンビニに特殊進化している古倉恵子と、淘汰されていくものとしての白羽として読んだので、進化の教科書である本書を関連作品として挙げました。
進化について書かれている本でもっと適切な本があるかも知れませんが、浅学にして思い浮かびませんでした。


『「自傷的自己愛」の精神分析』斎藤環

主人公ではなく白羽さんについてです。小説ではなく、精神分析本です。白羽さん、「自傷的自己愛」に当てはまるのではないかな、と思います。
※「自傷的自己愛」とは筆者が作った言葉であり、正式な病名等ではありません。病理ですらなく、筆者は治す必要もないと述べています。誰でも、いつでもなりうるものです。
全「自称・コミュ障民」に布教したいくらい、超おすすめでーす!


『子どもの文化人類学』原ひろ子 

文化人類学者のエッセイ。『コンビニ人間』読んでいて何度も「普通」という単語が出てくるのにうんざりし「えーい!世界にはいろんな普通があるんだからうだうだ言うな!」と投げつけたくなった本です。
でも学生時代の古倉さんがこの本を読んで「自分の居場所が世界のどこかにある!」と思うのかまではわからない。彼女の問題は他にある気もする。
白羽さんに読ませたらどんな感想が出るのかも気になります。


『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』内海健

私にはかなり難解でしたが、精神科医の著者による金閣寺に火を放った林養賢と三島由紀夫の分析はかなりスリリングで、読書の仕方自体に影響を受けそうな本です。
太宰治や芥川龍之介にも少し触れられていて、この2人についての著者による更なる分析も読みたくなる。
今回読み返したら「つまり三島の精神世界は、論理的なものと感覚的なもので成り立っており、その間にあるはずの感情や心理的なものが抜け落ちている。その欠落を両者で補っているのである。」(P120)
と『コンビニ人間』を連想させるような事が書いてあって戦慄した。



おわりに

いやー楽しかった!企画した私が一番楽しかった!
紹介者の熱意と共に本の魅力を知ることができるので、ブックガイド読むの昔から好きなのですが、いつも読書会や猫町ラウンジでお話ししている猫町仲間の紹介文を読むのは本当に楽しかったです!
紹介コメントをくださった皆様に重ね重ねお礼申し上げます。

最後になりましたが、一緒に『コンビニ人間』読書会運営をした駒井組サポーター&サポサポの方々、読書会に参加してくれた皆様、そして何よりいつも素敵な課題本を選び、関連作品を紹介してくれる駒井さんに心から感謝を!!!
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