ヒヤスンスって何か分かりますか?

元ネタは「OVER THE SUN(オーバー・ザ・サン)」というPodcast番組です。ジェーン・スーさんとTBSラジオのアナウンサー堀井美香さんが毎週金曜日に更新していて、「太陽の向こうに向かって、オーバー!」という趣旨で、アラフィフ女性お二人の軽快なトークとリスナーからのメールがメインコンテンツです。そうですねこれでは良くわからないと思います。タイトルは「オバサン」から来ており、主に中年女性や中年女性予備軍をメインターゲットにした番組で中年男性の僕も初回から聴いています。TBSラジオの「生活は踊る」からのスピンオフ的な番組ではありますが、Podcast配信のため基本的にはなんでもありの無法女子会。不倫のエピソードやロマンス詐欺に引っかかった話、果てはVIOゾーンの脱毛やモナリザタッチなど赤面してしまうような話題も多数です(分からない男性はググってください。くれぐれも身近な女性に尋ねないように)。

この番組の企画で「みんなでヒヤスンスを育てよう」という奇妙なムーブメントが起きています。「ヒヤスンスって何?」って思ったでしょ?お花です。そう、正確にはヒヤシンス。香りの良い花を咲かせる球根植物です。小学生の頃学校で育てたことある人もいるかも。球根はホームセンターとかで数百円という手軽な価格。秋に植えて、春に花咲くという特徴があります。

このヒヤスンスを、Podcastリスナーのみんなで同じ時期に育て始めたら一斉に花が咲いて、それを各自で眺めたら楽しいかも!という企画なのです。ハッシュタグ(#ヒヤスンス)もあり、SNSで眺めているだけでも面白い。実際には植えて数週間で冬なのに開花したという報告もあるし、そもそも番組の影響か球根自体が入手困難でスタートが遅れているリスナーも多数のようです(僕は新年明けてから入手しました)。いいんです。キッチリ始めなくても。自分のペースで育てれば良いんです。色々な事情からヒヤスンスを育てることが困難な人に対して、スーさん美香さんはこう言います「心の中で育てればいいんですよ」。

この番組では、ヒヤシンスをわざと訛った口調で「ヒヤスンス」(※口調は志村けんの変なおじさんの「そうでス、アタスが変なおじさんでス」の感じ)と、一種の暗号にしています。これは、勿論リスナー同士で共感を高めるための内輪向けのキーワードでもあるし、「何でヒヤシンス育ててんの?」と家族や同僚に疑問を投げかけられたり、自分がふと我に返った時に「違う、ヒヤスンス!笑」と返すことで新しいことにチャレンジすることへの照れ隠しというメリットになっているように感じます。

この番組内では毎週のようにリスナーが育てているヒヤスンスの発育報告が読み上げられます。「コロナ禍で誰とも会えないけど球根を育てることで気分転換している」「海外赴任している娘と日本にいる母親で同時期に育てる」「根っこが腐り出した笑」「推しの名前をつけたら球根の前で着替えられなくなった」などなど。堀井アナは、就職して一人暮らしを始めた娘さんにヒヤスンスの球根をプレゼントしたそうです。何色でもいいじゃない。水耕栽培でも鉢植えでもいいじゃない。咲かなきゃ咲かないで、それもあなたの物語。

毎週冒頭の「よくぞよくぞ金曜日まで辿り着きました。本当にお疲れさん」というスーさんからの挨拶に救われた人も多いでしょう。時には涙するようなエピソードが挟まれる瞬間もあります。ですが、前述したように基本的にはスーさん美香さんの馬鹿っ話に爆笑したりお二人の最近の関心ごとをただ聴くだけの娯楽番組です。ヒヤスンスの企画が持ち上がった時には、「ヒヤスンス」という語感だけで盛り上がったお二人が「ヒヤスンス音頭を作って盆踊りしよう」と言い出し始めて、大爆笑しました。「スーススースススヒヤスンス♪」で踊りたい。

このヒヤスンスですが、「花は誰も傷つけない。誰からも奪わない。辛いことがあった時も嬉しいことがあった時も何もなかった時も、花を愛でよう。日本だけではなく、世界中にも仲間はいる」というメッセージなんですね。少なくとも僕はそう受け取りました。馬鹿馬鹿しい話で大爆笑することの方が多いですが、時々送られてくる真剣なお悩みや愚痴のメールに対してスーさん美香さんから発せられる「ええんやで」という、肯定100%の言葉に勇気づけられたリスナーも多いことでしょう。

先日のトリコ組オンラインで課題本になった「生きるためのフェミニズム」を読んで、パンとバラの話が出てきました。パンは生きるために必要な「生活の糧」を指し、バラは「尊厳」を指しています。フェミニズムと労働をテーマにしたこの本では、「魔女は禁欲も隷従もしないのだーーパンも、バラも、よこせ!」と言います(「魔女」が何を指すかは課題本をお読みください)。

僕の参加したチームでは「バラにも色々あるよね。仕事を認められたいだったり、優しくして欲しい、とか愛されたい、褒められたい、とか」という意見が出ました。他にも、「関心を向けて欲しい」「独りにして欲しい」というバラもあるかも知れません。

トリコ組オンラインのサポーターとして参加し今のところ男性は僕ひとりです。でも、フェミニズムだから女性しか学ばないのは違うと思い少しずつ勉強中です。今まで日本では女性の意見を聞いて来なかった歴史があり、それこそ課題本のパンとバラで例えると、女性にはパンだけしか与えられなかった歴史が長かったことを知りました。何となく知ってはいましたが、きちんと過去を学び始めました。女性が参政権を得たのは1945年です。男女雇用機会均等法の制定は1985年です。2018年には東京医大などの女性受験生に対する入試差別が発覚しました。これまで、女性はバラを得る権利どころか、どんなバラが欲しいのか選ぶ機会も奪われて来たことは、男性も知っておくべきだし、考えるべきです。

こういうことを伝えると、「ではどんなバラを与えれば良いのか!」と何故か怒った口調の男性に出会うことがあります(僕と同世代のおじさんに多いです)。ちょっと待って下さい。二つ言いたいことがあります。ひとつは、バラ(尊厳)は男性が「与える」のではなく、女性が掴み取るものです。二つ目は、そのバラを選ぶ権利は女性にあるのです。人によってバラは違いますし、「今は欲しくないから、後で考えたい」という女性もいるでしょう。バラじゃなくて、ヒヤシンスかも知れないし、チューリップかもしれない。今はもっとパンが欲しいのかも知れません。もっとパンを食べて、お腹いっぱいになったらコーヒーでも飲んで、休憩したら花屋に行くのかも知れない。それは当事者が決めれば良いことだと思います。

課題本172ページに「まわりを見回して、誰の声が聞かれていないのかを考えて欲しい」という文章があり、とても良い言葉だなと思いました。僕は猫町倶楽部では話をし過ぎてしまうのでしばらくはPCにメモを貼っておこうと思います。僕の声が大きいから、目の前の人は声を発していないのかもしれない。話し出すタイミングが無いから、それとも自分が話をして良いのかためらっている瞬間なのかもしれない。もしかしたら「この人に話をしても理解して貰えるはずがない」と思われているのだったら、僕の普段の言動が原因なのかも。男性全体に失望している?それは何故?

フェミニズムを勉強し始めて、女性と男性はもっとお互いの声を聞いた方が良いと思うようになりました。決めつけや自分の都合ではなく、本当に相手が求めている物や事が何かを考えて、真摯にその声に耳を傾けること。その人が自力で手に入れられないのだったら協力すること。これは女性と女性でも、男性と男性でも大切なことだと思いませんか。

時々、花屋やスーパーなんかでちょっとした花を買って来て、視界に入る場所に飾っています。自分で買ったり貰ったりした花が視界に入るだけで、いくらか未来が好きになります。もちろんその花は誰かから奪ったものではありません。数百円で数日間豊かな気持ちになれるのはなんだか得した気分になりますのでオススメです。

花は誰も傷つけない。誰からも奪わない。そんなことを考えた読書会でした。



【参考】
TBSラジオ『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』
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