【参加した読書会】
2024年2月14日
猫町倶楽部 Cinema Table Classic『The Deer Hunter』

【背景】
僕のトラウマ映画の筆頭『ディア・ハンター』。
中学生~高校生の頃に観たけど、“あの”場面がトラウマ過ぎて内容をほとんど覚えていない。それでも名作と言われている映画だし、トラウマ克服したいし、いつかもう一度観たいと思っていた。Christopher Walkenを最初に知った映画でもある。
前に観たのは何十年も前のことだしさすがに大丈夫だろうと思い鑑賞に臨んだ。

【感想】
ベトナム戦争に行くまでがいちいち長い。長すぎる。そこまで必要か?    という長さ、テンポも良くない(2020年代の感覚だと)。ベトナム戦争に行ったら行ったで、もうそんなとこにいるの?    と拍子抜け。これも今の目で見ると戦闘シーンがすっぽり抜け落ちている感じ。そして問題のロシアンルーレット。半端ない緊張感ではあるがそれだけといえばそれだけ。その後も物語の展開は合理性に欠けているしご都合主義。Michaelがサイゴン陥落の頃にベトナムに行けた理由も、フランス人の胴元(?)を見つけられてNickのところまで行けるのも、Nickがロシアンルーレットに参加しながら生き続けているのも、論理的に考えると疑問だらけ。

……でも、これら全て、Michael Ciminoが監督としてやりたかったことに思いを馳せると(整合性はないにせよ)納得はできる。

Michael Ciminoがこの映画でやりたかったこととは、
 1. Michael (Robert De Niro) のNick (Christopher Walken) への愛情と喪失
 2. ロシアンルーレット
 3. 鹿狩り
この3つだったと断言しよう。


ベトナム戦争はNickにロシアンルーレットをさせるための舞台装置に過ぎない。映画が撮られた時代もあり、結果的に「ベトナム戦争と兵士のPTSDを描いた最初期の映画」として評価できるのは皮肉だけど、「ベトナム戦争を描こう」という動機や意気込みは実は見当たらない。

物語が始まってすぐ、MichaelがMeryl Streep演じるLindaに眼差しを送っていて「親友のNickの彼女だけど、Lindaに対して横恋慕してるんだ。さすがうまいなあ」と思っていたけど、Michaelが見ているのはNickの方か!    と気付いてからは、全てのシーンの意味が変化した。
自分と同じ名前を主役にしてその人をGayとして登場させているのだから、恐らくMichael Ciminoの作品を観ればそのあたりはもう少し解析できると思う。
そしてロシアンルーレットという素材。映画の中でロシアンルーレットをすることが大前提で、んじゃどうやって登場人物たちにロシアンルーレットをさせるか?    ということでベトナム戦争で捕虜になる、というストーリーに乗せたのだろう。「ロシア系の主人公たち」が、「ソビエトが支援している北ベトナム」と戦い、「“ロシアン”ルーレット」に耽溺する、という構造はとてもよくできている。移民の子孫がアメリカでアイデンティティを確立するために戦争に行ったという背景もあったのかな。
鹿狩りについてはまだうまく整理できていないけれど、西洋で鹿を聖なるものとして扱うことと関係しているのだとは思う。

とはいえ、ロシアンルーレットの場面はどこも緊張感が高く、最後のNickの場面はやはりある種の感動した。やるせなさの極み。

音楽はどこの場面も素晴らしかった。
『Can’t Take My Eyes Off You』はBoys Town Gangのものは知っていたけれど、Frankie Valliがオリジナルだとは知りませんでした。バーでみんなが合唱するのが良かった。

【読書会を経て】
前半のパーティと結婚式の場面、美しく描かれているけれどかなり退屈だと思いましたが、読書会で話しているうちに別の意見に変わりました。
炭鉱で働く日常、結婚式という祝祭を経て、戦争という非日常を経験する。日常は退屈だし、祝祭は終わると日常に戻るのが常だけど、戦争に行ったことでStevenは身体を失い、Nickは命を失い、Michaelも何かしら不可逆的な変化をしている(うまく言語化できません)。あれだけ退屈だったと思っていたのに、戦争によって分断されてしまうともうそんな退屈な「日常」にも戻れない。前半はそういう意味を感じさせるための仕掛けだったのかもなあと思いました。

【Recollection】
・鹿が聖なるものとして扱われている(であろう)映画(『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』『聖なる鹿殺し』)
・Christopher Walkenが『Pulp Fiction』でベトナム戦争から「還ってきた」Captain Koonsを演じていた。しかもお尻に時計を隠すという隠語っぽい感じ。絶対『The Deer Hunter』から引っ張ってるんだろうと確信した。
・Fatboy Slimの『Weapon of Choice 』。めちゃクールなのでぜひ観てください。

【Next Step】
・Michael Ciminoの映画を観る。『Year of the Dragon』は公開当時に観たが、スタイリッシュだけど拍子抜け、という印象だけで内容は全く覚えていない。配信にはなっていないみたいなので今すぐは観られないけど、一つ前の作品である『Thunderbolt and Lightfoot』はBlu-rayを購入したので、近いうちに観てみる。
・1980年代以降のベトナム映画にはマッチョ系、リアル系、後遺症系があるように思う。見比べてみると面白そう。