2024/02/14のディア・ハンターの読書会に参加しました。

戦場で心を病み、戦後も帰国せずに現地で死のギャンブルに耽溺しているニック(クリストファー・ウォーケン)や、彼の友人で彼を命がけで連れ帰ろうとするマイケル(ロバート・デ・ニーロ)の動機については、珍しく意見が割れました。

マイケルのニックに対する突出した言動については、同性愛として解釈できるという感想がありました。反対に、社会的弱者であるロシア人コミュニティーの結束力の強さや、若い男性間の強いつながりとして解釈すべきだという意見もありました。

どちらの意見にも説得力はあります。しかも、かけがえのない相手に対する強い愛と、仲間に対する愛とは、相互に矛盾する性質があり、そのため意見が割れやすいのかもしれません。そもそも感想や解釈というものは人それぞれです。

作品を味わう時、私は正しさよりも楽しさや面白さなどの感情を重視します。この作品では、個人への愛だけ、もしくは仲間意識だけという解釈は、私にとっては何か物足りず、マイケルは矛盾した感情を抱えたまま人生を複雑に生きてもいいんじゃないだろうか、と思いました。人は死を意識すると本来性を取り戻すといいますが、ロシアンルーレットで自分を撃つ直前にマイケルがニックに言った「愛してるよ」という台詞は、彼の複雑な感情をひとことで表せます。

複雑といえば、マイケルと対比的に描かれているスタンリーという男も重要な役どころです。彼は自己肯定感が低く、拳銃を常に携帯して友人にすごんでみせたり、ホモフォビア的言動や、他者を見下す言動を繰り返します。しかし監督はそんな人物も否定的には描いていません。コミュニティーはそういう人物も含みつつ、矛盾を抱えながら皆で生きていく、という姿をラストの葬儀の場面で描いていると感じました。演じているジョン・カザールをネットで調べたところ、メリル・ストリープとシェイクスピア劇での共演をきっかけに婚約した直後だったとか、この映画が遺作であるとか興味深い記事が多く、彼の演技の分かりやすさにも納得しました。

読書会では映像の美しさについてはあまり話す機会がありませんでしたが、長い結婚式の後に路上で夜明けまでバカ騒ぎをして空が青くなり始める場面、美しい朝日の中で男達がボロボロのキャデラック・クーペに同乗してふざけながら森まで走る場面、そのまま峻厳な空気の中で鹿狩りが始まり、一発で鹿を絶命させる場面、そこからいきなり戦場に切り替わるまでのシークエンスは、無責任で残酷で美しい青春がすべて表現されており、とても気に入ってます。

シナリオとしては結婚前の男女の群像劇でもあり、青春ドラマなのですが、私は素直に青春ドラマとして見ることができませんでした。俳優陣が若くして芸達者で大物感があり、未熟で繊細で迷える若者にはあまり見えないせいかもしれません。それに40年前の若者と、今の若者とでは、顔つきが全然違います。それを差し引いてもロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技はあまりにも素晴らしく、監督主導の時代から俳優主導の時代へと変わってゆく変革点の映画だと思います。