2026年2月の洋書読書会の課題本、テネシー・ウィリアムズの"Lord Byron’s Love Letter"は例月以上に短く、読書会で話題に事欠きそうだなと思ったため、少しでもそのネタになればとブログを書いてみることにしました。英米演劇は30代の前半から半ばにかけて結構観たり読んだりしたので、多少は詳しいです。
〇テネシー・ウィリアムズについて
作者テネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams, 1911-83)はアメリカ南部・ミシシッピ州に生まれた、20世紀アメリカのみならず世界を代表する劇作家です。今ではすっかりマイナーな芸術ジャンルとなってしまった演劇ですが、西欧では小説(散文)よりもずっと古い歴史があり、20世紀に入り大衆消費文化が発達すると、庶民の娯楽として花開きます。第二次世界大戦後の1940年代後半~50年代が演劇の黄金時代ですが、とりわけブロードウェイがけん引するアメリカ演劇は、世界演劇をリードしていました。その筆頭たる劇作家がアーサー・ミラー(Arthur Miller)と、テネシー・ウィリアムズです。
テネシー・ウィリアムズの代表作と言えば、何と言っても『ガラスの動物園(The Glass Menagerie)』(1945)と『欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)』(1947)です。出世作である『ガラスの動物園』はウィリアムズの自伝的作品で、語り手トムが姉と母とともに暮らした過ぎ去った日々を思い返す、「追憶の劇」と作者自身が名付けています。日本でもこれまで様々な劇団・団体が上演を繰り返してきました。僕も何度か生の舞台を観てきましたが、2012年に深津絵里が姉ローラを演じたシス・カンパニーの公演が特に良かったです。
『欲望という名の電車』も、老舗劇団・文学座が1953年に杉村春子主演で上演して以来、日本の現代演劇史にその名が刻まれています。南部アメリカの大農園の娘ブランチの悲哀と、「新しいアメリカ」(新潮文庫カバー裏の紹介文)を体現する妹の夫スタンリーのコントラストは、時代を鮮やかに切り取っています。名台詞も多く、とりわけブランチが登場するシーンの「「欲望」という名の電車に乗って、「墓場」という電車に乗りかえて、六つ目の角でおりるように言われたのだけど―」は有名です。この作品は監督エリア・カザン、主演ヴィヴィアン・リー&マーロン・ブランドで1951年に映画化され、その年のアカデミー賞俳優部門を総なめしました。
個人的には、比較的マイナーな作品ですが『渇いた太陽(Sweet Bird of Youth)』(1959)が好き。2013年の上演では容色衰えるかつての大女優役の浅丘ルリ子相手に、野心を秘めながらも破綻に終わる青年役の上川隆也の演技が心を打ちました。
〇"Lord Byron’s Love Letter"について(ネタばれあり)
テネシー・ウィリアムズは「一幕物(One Act Play)」と呼ばれる短い劇もたくさん書きました。伝統的な劇場では客席と舞台の間に幕(緞帳、カーテン)が下りる構造になっており、劇の最中に幕を下ろして客席から舞台を遮り、その間に舞台装置替えを行ったり役者が衣装替えをしたりして次の場面に備えます。「一幕物」とはその場面転換を行わない、最初の舞台セットのまま芝居が最後まで進む作品です。物語の場面設定(場所・時間)が限定され、緊密な劇空間を生みます。
今回の短い喜劇を理解するに当たり、'Lord Byron'について知っていることが前提になります。「バイロン卿」とは、19世紀のロマン派詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン(George Gordon Byron, 1788-1824)を指します(前半の'Old Woman'の台詞の中に出てくるShelley、Keatsも同じくロマン派を代表する詩人です)。バイロンはスコットランド王家の血を引く貴族の家柄で、生まれつき右足に障害がありました。詩人として大成しましたが、それと同じかそれ以上に、社交界の寵児として数々の恋愛遍歴(近親相姦、男色行為含む)が彼を有名にしました。バイロンはイギリスにいられなくなって大陸に渡り、最後はギリシア独立戦争に身を投じますが、病死します。'Spinster'と'Old Woman'にとって詩人バイロンは何を象徴しているのでしょうか。屋敷を訪れて話を聞いていた'Matron'と'Husband'の描写は何を表しているのか、ニューオリンズのマルディグラ(Mardi Gras festivities、謝肉祭)は物語の中でどのような機能を担っているかについても併せて考えてみたいと思っています。
戯曲は登場人物の会話により物語が進行するため、英語の文章は全体的に小説よりもかなり易しいです。今回の作品は所々見慣れない単語が出てきますが、普段英語に触れていない方も、今から通勤電車の中で十分に読み終えられるぐらいの負担だと思います。この作品は著作権が切れており、下のリンクのWEBサイト'Internet Archive'にて無料で読めます。
https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.235252/page/115/mode/2up
2/18の洋書読書会では、これまで参加されたことない方にも会えることを楽しみにしています!
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2026/02/07 22:44
