『ギリシア神話』との果てしなくながい戦いや、新しく届いた本棚組み立て作業が無事終わったので、そろそろ『詩とことば』読書会について書きたいと思います。

まずはラウンジ内で楽しい企画を開催しててくださった文鳥さんに、お礼申しあげたいと思います。ありがとうございました。

 文芸作品の中でも、最も読者が想像する余地の大きい「詩」についての読書会を開催してみたい。でも詩を読む人もあまりいない今、現代詩について意見を発表し合うというのもなかなか難しいかもしれない。というわけで、散文の形で詩について考えることのできるこの本を。

 というような理由を挙げて、課題本に選んで頂いたのですが、ぶっちゃけ僕が趣味でやりたかった本です。すみません。でも全く人が集まらないということもなく(そんなに多くもないですが)楽しく過ごすことができました。サポーター含め、多くの方に親切にして頂けてとても嬉しかったです。

 読書会前のあいさつでもお話したのですが、荒川さんの本にはじめて出会ったのは大学生の時。図書館に新刊として入っていた『詩とことば』、下の文字が読めるよう丸く穴あきされた黒いカバーが青カバーの上からかけられた格好良い本、を見かけて、国語の教科書ぐらいでしか詩を読むことのなかった当時の僕も、ちょっと読んでみようかな、と思ったのでした。

 課題本として読んで頂いた方はご存じだと思いますが、読み始めてすぐ〈詩のかたちをしたものは敬遠される〉とか、散文の方が詩ではないので近づきやすいとか、堂々と書いてある。人によっては「めんどくさそう、じゃあいいです。さようなら」とあっさり言われかねない書き方なんですが、万人にわかるよう余分な物やごつごつしたところを取り去った散文の言葉があたりまえのように意識を占有する時代に、作者個人の判断によって行分けやことばの選択がなされあくまで個人的な思いを提示しようとする「詩のことば」はだいぶ分が悪い、ということを充分に意識して書かれているのが伝わってきて、個人的には出だしから好感を持ちました。

 また行分けや飛躍が文章のなかでどのような効果を発揮するかや、ただのメモが詩に近づく瞬間について。詩の表現が散文作品のタイトルに長く影響を与えてきた歴史。ごく少部数しか刊行されない詩集との出会いの喜び、など個人的には気になる箇所がたくさんあるのですが、そろそろ読書会や懇親会でお話した内容に移りたいと思います。

 「白い屋根の家が、何件か、並んでいる」というのは散文。詩はそれと同じ情景を書きとめるとき「白が、いくつか」と書いたりする。乱暴な表現だ。だが人はいつも白い屋根の家が~という順序で認識するのだろうか?本当は「家だ、白い!」と知覚をしたのに、人に伝わりやすい順序で散文として組み立て直しているのではないか。と書いてあるところはこの本で一番印象に残っているところなのですが、他の参加者からも人気があって、この面白さが伝わっただけでも、読書会ができて良かったと思える体験でした。

 そもそも詩人と聞いてパッとみんなが名前を思いつくのは谷川俊太郎さんぐらいでは?というお話は、一人だけというのは残念だな、と思いつつも納得しましたし。東日本大震災の後福島出身の和合亮一さんという詩人を知った、というお話を聞いて、そうか、そういう風に詩が話題になることもあるんだな、と思って面白かったです。

 あと現代の詩人としてやっぱり話題にのぼるのは最果タヒさんで、僕も熱心なファンというほどではないのですが、詩集はちゃんと現代詩の水準で読めるものだと思いますし、パルコの展示タイトル「われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る六等星なのです。」という一文を見て、コロナウイルスに被災した社会の中で個人として発する言葉として、とても良いのでは、と思いました。応援したい。

 地味に話題になったのが、相田みつおさんの扱い方で、ファンの方には申し訳ないんですけど、まぁ文芸の世界ではほとんど評価されていないわけですが、詩というほどのものではない、はなかなかひどいというか、散文は異常なものであると書いて平然としている荒川洋治のおそろしさが垣間見える瞬間ですね。(荒川洋治のヤバさをもっと知りたい方はぜひ『美代子、石を投げなさい』という詩も読んでみてください)

 また谷川雁や村上一郎といった詩人が政治的な時代に人気があったこと、現代には人を高揚させるような言葉を持つ詩人があまりいないのでは、という指摘には、個人的には政治と文学を結びつけるタイプの作品はあまり好みではないのですが、そういうものを求める人は多いと思いましたし、ラップミュージックなどがプロレタリアの詩を引き受けているんじゃないか、というお話は新鮮に感じて、現代詩ももっとそういう分野を感じられたらいいのかな、と感じました。

 今の若い詩人で難解な現代詩、いわゆる現代詩らしい現代詩の詩人としておすすめを聞かれたので、乏しい知識の中から広瀬大志さんと小笠原鳥類さんのお二方を挙げたのですが、すみません二人とも若手とは言いにくいですね。でも千葉雅也さんが『勉強の哲学』の中で日常言語を離れる言語の使用について書いた章でも引用されているのがこの二人なので、普通じゃない言葉遣いに出会いたい、という人にはおすすめです。若手というと、詩の世界だけではないと思いますが、新しい人ほど女性の割合が多くなっていく、という傾向があるのは良いですよね。別の課題本で翻訳を担当していた蜂飼耳さんの詩集を買ったよ、という方も参加されていました。猫町倶楽部の課題本は、時に興味の幅を広げてくれるので良いですよね。


 最後に需要あるかどうかわかりませんが、個人的に実践している好きになれそうな詩人の探し方をここに書いておこうと思います。現代詩文庫、というシリーズがあります。荒川洋治詩集、とか詩人の名前が入ったベスト版みたいな詩集です。大きな本屋さんに行くと何冊か置いてあると思うので、パラパラとめくって、なんとなく良さそうだな、と感じた詩の入った本をぜひ買ってみてください。もし気に入った詩が一個もなかったら、このシリーズには大抵その詩人が書いたエッセイなどの散文も後ろのほうにひっそりと載っていますので、邪道かもしれませんが、そこを読み比べて、フィーリングが合いそうな人を選ぶ。そんな方法です。


またいつか詩集の読書会もやってみたい。