ヴォネガットの作品には全く触れたことがなかったのと、SF小説にも星新一やオーウェル以来でしたが、久しぶりに脳みそをくすぐられたり裏返されたりするような、不思議な体験。
ひどい話で深いメッセージを持ったストーリーにも関わらず、固定概念やバイアスを裏切って、飄々と読まされてしまいました。いや、これは深い。
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以下、表現だったり、ここに書かれているメッセージをまとめてみました。
■ スローターハウス 5という題名
Slaughter:虐殺、殺戮、食肉処理
何か、産業化された、むちゃくちゃのスプラッター、
イカゲーム的な屠殺場かもと。
でもでも、私たちの現実世界、過去に起こった戦争という大虐殺の話だったこと。
これが一番の恐怖。
■ 組み合わせの絶妙さ。
実在した人物(私とか) ✕ 架空の人物(トラウトとか)
実存する論文 ✕ 実在しない作家や作品
現在 ✕ 架空のありえない時間展開
戦争のリアルで詳細の描写 ✕ 宇宙や未来での不思議設定
ばたばたと人が死んでいく残酷で暗い情景 ✕ 滑稽な言葉遣いやSo it goesが作るグルーヴ感
■ 大きなものに飲み込まれた小さな地球の小さなビリー
現在、過去、未来に放り込まれる彼には、
まるで、アフリカに奴隷として送られるとは知らない子供十字軍のよう。
全く屈強たる戦士ではない。
まるで大きなものの臓物にずぶずぶと沈んで、排泄されて、
また食われてはき出されるように、
なんとなく、ぷりぷり健康的にされ、
養豚場の豚のように生かされてしまう。
自分の意思なく、あるものを着、目の前にいる人間と結婚や性交する。
そぐわないことをずっと溜め込んで、ある日、ビリーも排泄するように語りだす。
学者さんがいうことを体験して、学者さんの知り得ないことにも巻き込まれた、
小さな地球の、小さなビリーなりの、目覚め。
ハワード・W・キャンベル・ジュニアが書いたとされる言葉。
「金を持たぬものは、したがっておのれを果てしなく責めることになる。そして、この自責観念が、一方で金持や権力者の財産となってきた事実も見逃すことはできない。」
(Kindle位置No.2089)
「・・・自分を愛するすべを知らぬ彼らは、他人を愛することもない。」
(Kindle位置No.2093)
ここでふと、自助の生き方を強いられる中で生きるビリーは、
なんだか私達の生き方にも、ときに似ているかもと。
まあ、そういうものだ。So it goes.
■ 死はあるもんである
「神よ願わくばわたしに
変えることのできない物事を
受け入れる落ち着きと
変えることのできる物事を変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ」
(Kindle 位置No.987)
「幸福な瞬間だけに心を集中し、不幸な瞬間は無視するようにー美しいものだけを見つめて過すように、永劫は決して過ぎ去りはしないのだからと。」(Kindle位置No.3094)
死を覚悟というとかっこいいが、
ビリーは死んだ気になったんだろう。
死ぬ人が見る走馬灯のような想起。
脈絡のない映像を、ガラガラポンするようなビリーの時空の旅。
バック・トゥ・ザ・フューチャーのドクとマクフライのような
派手な介入もできないし、枝分かれもない。
そこにフラットにある過去、現在、未来のガラガラポン。
希望がないように見えるが、生きてきたということがなぜか素敵なことに見える。
世の中がクソ(汚い言葉で失礼)なとき、
小市民の生き方って、英雄ではないけれど、
そこここで、何かを見て、体験してきたんだ。学者さんの知識だけの薄っぺらさとは、違う。
書いて残すのも、語ることもできる。小市民なりに。
まあ、そういうものだ。So it goes.
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未来や大きなものを変える希望がなければ、
まず、変えることができるのは、私たち自身の視点だったり、受け止め方。
オプションB。
飄々とね、軽やかにね、
生きていかなきゃいけないんだから。
まあ、そういうものだ。So it goes.

2021/10/30 12:33